氷の華とチョコレート

「彼からメールがあって、返信するの忘れてたのよ」

「いいわよ、この時間なら一人で充分だし」

「ありがとう、今度埋め合わせする!」


 いそいそと、化粧室の方向に姿を消す中野さん。その後ろ姿を見送りながら、ついつぶやいてしまう。


「デートかぁ、いいな……」


 彼はおろか、好きな人さえ出来ない状況。本当、氷の華なんて迷惑なあだな付けられて……。たまには携帯番号とメルアドの書かれた名刺の中から、デートの相手でも見つけてみようかしら?


「……」


 でもあの、下心いっぱいの、氷の華とか言ってる、私をどんな風に見ているのかまったくわからない人達の中から? 選んでデートとか、本当に出来るの? 私。



『そんなこと言うんだ?』

『君はただ黙って笑っていてくれればいいから』



「……」


 はぁ、嫌なこと思い出しちゃった。やっぱり無理だわ、あの中からだなんて……。


「氷室さん?」

「はい?」


 突然名前を呼ばれて、顔を上げると。目の前に、アーモンドチョコレート色の瞳。


「あっ! えっと……」


 突然過ぎて、上手く言葉が出てこない。


「Re:社の真間です、この前は本当にありがとうございました」

「いえ、お役に立てて嬉しいです」

「おかげで上司への提出資料が間に合いました」

「……」


 こんな風に笑うなんて、ちょっと不意打ちだ。元々色素の薄い瞳と髪の色、肌の色も白くて、ふんわりとした可愛らしい印象。にっこりと笑う顔が、やけに幼くなって……。



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