氷の華とチョコレート

「困ります、こんなに……」


 顔を上げると、目の前にアーモンドチョコレート色の瞳があった。その瞳が、ふんわりと笑う。


「君の気持ちが嬉しかったから、そのお返しです、いらなかったら捨てていいし」


 そ、そんなこと、出来るわけないでしょう!?

 思わず言いそうになった言葉を、あわてて飲み込んで


「……あ、りがとうございます」


 ぎこちなく答える私に、真間さんは、くすりと笑う。


「毎日受付にいるわけじゃないんだね?」

「はい? この時間帯は月曜と木曜が多いです」


 もしかして、一度来てくれたのだろうか?


「オレも、木曜日が多いかな?」

「……」


 そう言えば、どちらにご用なんだろう? 接客した記憶は、この前くらいしかない。


「じゃあ」

「あっ、はい! わざわざ、ありがとうございました」


 私の挨拶に会釈を返して、真間さんは、玄関の向こうに消えていった。


「氷室さ~ん、どうしたの?」


 えっ?

 振り向くと、興奮気味の中野さんがこっちに駆け寄って来る所だった。


「この前お貸しした傘を、丁寧に返して頂いていた所よ? 先週の夕立で困っていらしたから……」



< 15 / 310 >

この作品をシェア

pagetop