氷の華とチョコレート
「お前が、最短で終わらせたいとか言うからだろ? ヤバいってわかってンなら、もっと上手く殴られとけよ?」
「そんな器用なこと出来ないから……」
二人の容赦ないやり取りに、まだ頭がついていかないけれど、荒谷さんと話す真間さんの口調が砕けていて、学生の頃こんな感じだったのかな? とぼんやりと思った。
「KEYさん、そろそろお願いします」と、警察の人が呼びに来た。
「今行きます、……じゃあ二人とも、後で、一応病院で診断書ももらってきて?」
「うん了解、よろしくお願いします」
「あの、宜しくお願いします」
荒谷さんたちを見送って、真間さんと二人になる。まだ色んなことがあり過ぎて、上手く頭が回らなかった、けれど……。
「真間さん、色々考えてくれて、ありがとうございます」
「うん、これで終わった訳じゃないんだけどね、……取り合えず、氷室さんが安心して自分の家で眠れるように、かな?」
「……はい」
「これから病院と、警察署に行って取り下げる予定の被害届け書かなきゃいけないんだけど、付き合ってくれる?」
「!?」
この人は、私の為に動いてくれたと言うのに、どうしてそんな…―――
胸の奥が、ギュっと苦しくなって、思わず泣きそうになった。お願いしなければいけないのは私の方なのに。
でも
イタズラっぽく微笑む、アーモンドチョコレート色の瞳に、私は
「もちろんです」
と、今出来る精一杯の笑顔を向けて返事した。