氷の華とチョコレート

 な、何事?

 突然光ったと思ったら、次の瞬間、物凄い爆音が地響きと共にきた。それを合図に、空から一気に雨が降り始める。


「大変! 氷室さんお客様用のビニール傘持って来て?」

「はい」


 鷹井さんの指示に、私は急いで1Fの階段下倉庫に向い、お客様用のビニール傘を取りにいく。十本ずつまとまった傘三束抱えてロビーに戻ると……。


「鷹井さん……」

「あぁ、ありがとう」

「凄い人ですね?」

「あんまりにも雨がひど過ぎて、帰れないでいるみたい」


 玄関入り口には、5、60人ほどの人が、雨宿りのため立ち止まって空を見上げている。


「……」


 雨は、バケツをひっくり返したような威力で地面に叩きつけられ、いくら傘があっても、こんな中を歩いたらスーツがびしょ濡れで、この後の仕事に支障が出てしまうだろう。


「……どうしましょう?」

「そうね、課長に指示を仰いでみるわ」


 そう言って鷹井さんは内線をかけ、私は持ってきた傘の束を取り合えず、受付カウンターの棚にしまった。


「――…えっ!? ……あっ、はい、わかりました」


 鷹井さんは、浮かない顔で内線を切ると、私の方を見た。


「鷹井さん、どうでした?」

「うん、このままでいいって……」

「えっ?」

「雨が強すぎるし、人数も多いから何もしないでいいとの、課長の判断よ」

「……」

「取り合えず、タクシーを呼んで欲しいとか、受付に声をかけてきた時には対応するようにって……」

「わかりました」


 確かに、この雨で傘を渡したら、ずぶ濡れになってしまうだろう。急ぐ人ならタクシーだし、そうでないなら、ここで雨宿りした方が賢明だ。


「すみません、タクシーを呼んでもらえませんか?」


 時計を確認しながら、一人の営業らしき人が声をかけてきた。



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