氷の華とチョコレート

「はい、すぐにお呼び致しますので、そちらでお待ちください」


 私はそう言うと、外線をかけ取り引きのあるタクシー会社に連絡を入れた。

 ほどなくして現れたタクシーに乗り、その男性はお礼を言って、ロビーから出て行った。そんなやり取りを何十回かして……。


「だいぶ雨落ち着いてきたね」

「はい」


 ロビーで雨宿りする人も、数十人くらいになっていた。


「そろそろ雨傘配ってもいい頃かな?」

「はい!」


 私は嬉しくなって、受付カウンターにしまったビニール傘を取り出した。そのまま鷹井先輩と一緒に、雨宿りするお客様に次々と傘を配って回る。

 急がないとは言っても、あまり仕事を止められないのだろう。傘を受け取った人たちは、嬉しそうにお礼を言うと、いそいそと傘を開いて外へ飛び出した。


「ふ~、ちょうどピッタリ傘もなくなったし、雨宿りの人もいなくなったね!」


 先輩に言われて振り返ると、1Fロビーには、私たちしかいなかった。




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