氷の華とチョコレート
「……」
夕暮れ時の1Fロビーが、こんな風に誰もいなくなることなんて、初めてかも知れない。
「とても広く感じますね」
「今なら寝転がっても怒られないわよ?」
「た、鷹井さん?」
鷹井先輩は時々突拍子もないことを言うから、どぎまぎしてしまう。
「ふふふ……♪ 冗談よ、落ち着いたことだし、ちょっとお手洗い行ってきてもいい?」
「はい、大丈夫です」
鷹井先輩が受付をはなれると、少ししてエレベーターホールから、あわてて玄関に走ってくる人がいた。
「あっれぇ? まだ降ってるんだ?」
同い年くらいの、たぶん営業さん? ぽい男の人。色素の薄い瞳がまるで、アーモンドチョコレートみたい……。
「はい、小降りにはなりましたけど」
「困ったな、早く帰ってやらなければいけない仕事があるんだけど」
「タクシーをお呼び致しましょうか?」
「……イヤ、この距離で使うと上司に叱られる」
苦虫を噛んだような表情が、あんまりにも情けなくて、可愛く見えて、私はつい吹き出して笑ってしまった。