アリス人形
「闇ならチェシャの方が深いよぉ…。」

チェシャ猫はトゲの塊を脱ぎ捨てると、亜里珠を見下ろした。

亜里珠は穏やかな顔で眠っている。

「ふぅ…。世話のかかる子だねぇ。ほら、アリス。起きなさいなぁ。」

チェシャ猫が頬をペチペチ叩くと、亜里珠はうっすらと目蓋を開いた。

「…あ、れ?チェシャ…猫?」

上半身を起こすと、亜里珠は呑気に大きな欠伸をした。

「全く…。帽子屋はどうしたんだい?」

チェシャ猫の言葉に亜里珠は顔を曇らせ、うつむく。

「帽子屋さん……亀を殺したの。なんか、私も殺されるんじゃないかと思って…逃げてきた。」

その言葉にチェシャ猫は呆れたようにため息を吐く。

「もしかしてぇ…亀の首でもとれたかい?」

「え、何で分かるの!?」

亜里珠の返答にチェシャ猫はさらにため息を吐く。

「それはニセガメだわぁ。首がとれるなんていつものことさぁ。」

「えぇぇぇ…。」

「あのシャイボーイに殺しなんてできるわけないでしょう?アリスを殺してもなんのメリットもないしねぇ。」

チェシャ猫は、やれやれといった感じで髪をかきあげる。

「だよね…。帽子屋さんに謝らなくちゃ!」

亜里珠は勢い良く立ち上がった。チェシャ猫はいつもの調子でにやつく。

「うん。そうしなぁ。」
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