アリス人形
「まあ、それはいいとして…ほら、ニセガメ。隠れてないで出てこいよ!」

帽子屋が背後の茂みに視線を移した。言葉にややトゲがある。

「で、でも…オイラのせいでアリス驚かせちゃったっピ。もう嫌われちゃったっピ。」

もぞもぞと顔を出したのはあの亀ではなく、綺麗な顔立ちの緑髪の青年だった。亜里珠よりも年上だろうが、その口調のせいか、幼く感じる。

「あ…れ?」

亜里珠はぽかんと口を開けたまま固まってしまった。
恐る恐ると、完全に姿を現したニセガメは、確かに亀の甲羅を着ていた。が、中身は人間だ。顔が整っている故、かなり残念な姿だった。

「あぁ…素顔は恥ずかしいっピ。」

ニセガメは猫背のまま、ぼそりと呟いた。成る程ね。と、亜里珠は腕組みをした。今まで彼は亀の被り物をしていたのだ。

「ああ…。」

ニセガメが人間と知ってやっと、亜里珠は自分の身長が元に戻っていることに気付いた。
今までそこまで気が回らなかったのだ。

「ニセガメ…恥ずかしいなら普通の服を着ればいいじゃん。」

亜里珠の提案に、ニセガメは帽子屋の影に隠れながら発言する。

「や、あの…これはいざというとき隠れられるからまだいいっピ…服は服で恥ずかしいっピ…。」

「へぇ、そう…。」
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