アリス人形
「昔、三日月に聞いたことがあるんだ。“偽族が嘘をつけない魔法の言葉”ってやつをさ。」

「へぇ…。そういえば帽子屋さん、どことなくぎこちなかったね。」

森は果てしなく続き、バラの迷路が現れる気配はない。

「ははっ。うっせーよ。流石に初めてやった事で慣れてないんだ。」

帽子屋は満足気に笑う。その足取りは何とも軽々しい。




──つまりはこうだ。
例えば、ニセガメが嘘をついているとする。

そこで帽子屋が例の質問をする。

「それ、本当か?」

「って聞いたら"はい、そうです"って言えるか?」

もし、本当か?と聞かれたらニセガメは「Yes」と嘘をつくだろう。

しかし、それに対し「Yes」と答えるかと聞かれる。「Yes」と答えるつもりだったのでここでまた嘘をつく。

結果。

「それ、本当か?」

「って聞いたら"はい、そうです"って言えるか?」

『No.』




「ニセガメみたいな偽族の発言全てが偽りとは限らない。だから、真偽を見分けるのは難しいんだ。だけど、不思議とこの言葉には"忠実"らしい。」

「…どうして?」

「それは、わからない。ま、天邪鬼も頭使ってうまく扱えば素直になるってことだ!」

「ふぅん…。」

"魔法の言葉"について、半分も理解出来なかったことは心に留めておこう…。そう心の中で呟いた亜里珠は、別の話題をふる。

「で、バラ園にはいつ着くんだろう?」

「……。」

すると、帽子屋はピタリと立ち止まり、砂浜に寝転んだ。
< 110 / 163 >

この作品をシェア

pagetop