アリス人形
森に入ると、木々がざわつき始めた。

「森、お願い。バラ園まで連れてって欲しいの。」

亜里珠は目を閉じ、聖母に祈りを捧げるかのように手を合わせた。

──ザワワ…その願い、承りましょう。アリス。─

「…ありがとう。」

「森が完全に心を開いた…?」

亜里珠は顔を上げ、目を細め、帽子屋は驚き、目を見開いた。

─お久しゅうございます。帽子屋の坊っちゃん。─

「400192時間以来だな、森。もう心は死んだものかと思っていた。」

─今回のアリスは私どもを二度も頼って下さった。今までのアリスは私どもを無視したというのに。─

今までのアリスとは、黒ウサギがさらっていった少女達のことだろう。

「よかったな、アリス。お前のおかげだってさ。」

「えへ。」

─さあ、信じる道をお進み下さい。バラ園まで導きましょう。─

2人は顔を見合わせ、小さく頷いた。

「急ぐぞ。」

「うん!」

木漏れ日が2人を照らし、優しい風が吹いた。

森の精一杯の応援だった。
まだ幼いこの少年少女は真実を求め、また一歩、前に進んだのだった。
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