アリス人形
「帰るのは簡単だ。簡単で難しい。」

芋虫は不規則に煙を吐く。帽子屋はわずかに身を乗り出し、彼の話を聞く体勢になった。それに対し、アリスは長い黒髪をいじるのに集中してしまっている。

「それは…自らの真実に向き合うことだ。」

「自らの…真実?」

「ああ。だが、気を付けろ。慎重にやらないと、」

「ふふっ。僕らみたいに死んじゃうからね。」

ふいにアリスは口を開き、立ち上がった。

「…あいつみたいに。」

「気を付けなよ、帽子屋。この子は予想以上に脆い。」

アリスは一輪のバラを指先で撫で、ぴたり。動きを止めた。

「でも安心して?強いところもあるみたい。」

くるっと振り返ったアリスは、どことなく辛そうに微笑んだ。

「どういう…?」

帽子屋が首を傾げると、アリスは彼のシルクハットを取り、くしゃくしゃに彼の頭を撫でた。

「わっ、何なんだよ!」
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