アリス人形
亜里珠は目を見開いたまま、まるで金縛りにでもあったかのように硬直してしまった。

「…らない。」

口元が引きつる。

「こんなの、知らない。」

目の前には幸せそうな、しかし、大きな闇を抱えている家族。

「こんなの知らない…!」

体がぶるぶる震える。亜里珠は首を激しく横に振り、後ずさった。

「知らない。あれは私じゃない!!」

「そうよ、それは貴方じゃない。」

それは、救いの手を差し伸べてくれた神の言葉に聞こえた。

「誰?」

辺りを見渡すが、声の主は見当たらない。

「後ろよ。う・し・ろ。」

背後には、庭へと繋がる窓がある。

外にいるのだろうか?

亜里珠は、ゆっくりと体を後ろへ向けた。
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