アリス人形
先程まではっきり見えていた影が、無くなっているのだ。

亜里珠は後退り、この時初めて背後に気配を感じた。

──…いる。

そう認識したと同時に、背後から腕が伸びてきた。

「…──っ!」

叫ぶ寸前、大きな手が亜里珠の小さな口をおおう。

「ん゙んーっ!」

恐怖のあまり暴れだす亜里珠。しかし、

「わっ!アリス、僕です!」

その声に思わず動きを止めた。背後から聞こえたそれは、どこか懐かしい声だった。

振り向くと、サラサラの銀髪に、レンズ越しに見える赤い瞳。

ち、近い…。

正直、こういうスキンシップに慣れてない。

「シロ、ウサギ…?」

眼鏡をかけた青年はにっこりと微笑む。

「すいません、驚かせるつもりはなかったのですが。」

「あ…大丈夫、気にしないで。」

そう言い、あれ?違和感を感じた。
青年から離れ、向き合う。白く長い耳が不自然に闇に浮かび上がっていた。

「…貴方は、誰?」

はっと我に返った。また、嫌な汗が背中を伝い、体が大袈裟に震える。

私は今、何て言った…?




『アナタハ、ダレ?』




目の前にいる彼は、

シ ロ ウ サ ギ じ ゃ な い ?

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