アリス人形
青年は一瞬ぱちくりと目を見開き、ふっと笑った。

亜里珠の顎を指でくいっと上げる。

「何でそんなことを言うのですか?僕は君の愛しいシロウサギですよ?」

──パシッ

亜里珠は手を払い除ける。

そう…シロウサギの姿だとわかった時、違和感があった。それはきっと、

『さあ、アリス。貴方にも衣装を着てもらいます。こっちへ来て下さい。』

『アリス!』

『ごめんなさい、アリス。森が嫉妬して僕をアリスから切り離したみたいです。僕が…僕が傍にいれなかったせいで…』

亜里珠はキッとシロウサギの姿をした青年を睨み付けた。

「愛しい…か。うん、確かにシロウサギは好きだよ?紳士的で、優しくて、いつも私の前にいた。私を導くために、私を安心させるように。」

好き。普通だったら、そうだね。アリスはシロウサギに恋をして、彼を追いかける…といったところかな。
でも、ごめんなさい。私の場合は、愛しいとはまた別の感情な気がするの。

青年は笑顔を固めたまま、で?と亜里珠を見下した。

「貴方は違かった。後ろからそっと来て、嫌な感じ…あれは殺意だった。」

「ふっ…残念だよ。あのまま大人しく捕まってしまえば良かったものを。まあ、いい。」

気付けば、青年は髭面の男に変わっていた。

「俺の名はジャック。この世界じゃあ“ハートのジャック”って呼ばれている。ちょっとした有名人さ。」

「へぇ…。それが素顔?
なんだ。ただのおっさんじゃない。」

「殺すぞ、糞アマが。」

暗闇の中、さらに気温が下がった気がした。
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