アリス人形
そう唸る帽子屋と、いつの間にか白い剣を手に構える人馬。亜理珠の身にも自然と力が入る。

「この場から立ち去りなさい、今すぐによ!」

人馬は静かに構えを変え、それが更に緊張感を増幅させた。

「嫌だと言ったら…?」

「処罰するまでだわ!」

叫ぶとほぼ同時に人馬は駆け出し、ジャックに剣が振り下ろされた。

頭部に触れる寸前、ジャックはするりと身体の重心をずらし、剣は空を切り、銀色のラインを走らせる。

「おっと…思っていたよりもスピードはあるんだな。レディだからって油断したぜ。ひひひ。」

わざとらしい身振り。
余裕。そう、ジャックは笑った。

「馬鹿にしないで!」

蹄を鳴らし、人馬は再びジャックに向かい立った。

一方で、亜理珠が恐る恐る口を開いた。

「帽子屋さん…あれ、」

「ん?ああ、俺もなんか武器あればなぁ…」

「いや、そうじゃなくて…なんかあれ、ヤバい気がする……。」

「は?……ぁ、」

帽子屋も気付いたらしく、頬を冷や汗が流れる。
言葉じゃ上手く言い表せない。強いて言うのならば…、

──ジャックの背後に何かが無数に蠢いている…。

「…確かにやばい。人馬!逃げるぞ!!」

帽子屋が叫び、人馬もやっとその存在に気付いたようだ。顔を強ばらせ、後ずさった。

「帽子屋さん…あれ何!?」

「あれは…!」

走ってきた人馬に飛び乗り、帽子屋が叫ぶように答えた。

「兵士だっ!!!!」

瞬間、背後からドンッ!と悪意…否、殺意を当てられる感覚に、亜理珠は思わず後ろを振り返った。

「逃がしてたまるか!!」

ジャックの声が響く。

──そして亜理珠は、恐怖のあまり言葉を失った。
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