アリス人形
「ありす!」

帽子屋は思わず声を上げた。
ありすは青いエプロンドレスを着こなし、髪をおろし、白いリボンのカチューシャをしていた。

「あら、帽子屋さん。“はじめまして。私はアリス”」

少女は丁寧に挨拶してきた。帽子屋は少女のあまりの変貌ぶりに言葉を失った。


“はじめまして”


その言葉が帽子屋の小さな心に突き刺さった。

「嘘だろ?なあ、はじめましてじゃねーだろ!?」

帽子屋は力強く少女の肩を揺さ振った。しかし、少女はポカンとした表情で少年を見つめるばかり。そのブルーの瞳に以前の活気は無かった。

「ストップ、帽子屋。ソーリー…驚かせてしまったね、アリス。」

そう微笑む三日月ウサギ。帽子屋からすれば狂気に満ちた歪んだ笑みにしか見えない。

そして、悟った。

彼女はもう“ありす”ではなく“アリス”なのだと。
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