語彙力ゼロなアドレナリン女子は、ダウナーなイケボ男子をおとしたい
 ある日の放課後、藤馬から声がかかる。

「水樹さんってキラキラ光って見えますよね」って。

「二十歳まであと二年です。付き合いはじめませんか?」とも言われた。
 私は驚きのあまり、背筋が震えた。
 何の疑いもなく、親から言われた婚約相手に結婚前提で声をかけてくる好青年。眩しすぎて、震えてきたのだ。

「そんじゃ、私と殴り合いしてください」
 と私が言う。何言ってるんだこいつ、と言う目で藤馬はこちらを見る。
「殴り合いですか?」
 とこちらの意図を図りかねるような顔で、こちらを見る。焦らす気もないので、私は本題を言った。

「そう。殴り合って日埜くんが勝ったら、付き合いましょう」
 私が求めるのは、殴り合えるような激しさのある恋愛なのだ。

 けれど、藤馬は、
「水樹さんと殴り合う意味を感じません」
 と一言で簡単におさめてしまう。
「結婚は決まっているし」

 そう生真面目に言うので、聞きにくいことではあるけれど、この際聞いておこうと思った。
「日埜くんは結婚する前に、やりまくっておかなくていいんですか?」
 と聞いたら、藤馬は目を見開いて、本当に驚いたという顔をする。

 補足しておかなければ、と思い、
「いや、すでにやりまくっているならいいんですけど。生まれたときから婚約者が決められてて、顔の好みとかもあるだろうし。経験は?」
 と二の句を継げば、それがより被害を広げたことを藤馬の表情で知る。

 しかし、幻滅されてもいいと思っているので、気安い。
< 12 / 55 >

この作品をシェア

pagetop