語彙力ゼロなアドレナリン女子は、ダウナーなイケボ男子をおとしたい
 藤馬は端的に、
「言葉選びは気をつけたほうがいいですよ」
 と言うのみだ。

「そうですよね、私は下品かもしれません。日埜くんとは格が違うし」
 と言ったら、「いや」と言う。

 そして、私の制服のネクタイを触って来た。自分の方へ引っ張っていき、藤馬は見たこともないくらいに、不敵な笑みを浮かべて、
「煽るの上手いなって。やってみます?」
 と言うのだった。

「悪い顔」
 と私が言うと、藤馬は「またまた、冗談ですよ」と柔らかく笑う。この人単なる優等生に見えて、絶対に、足のつかない類いの遊び人だ、と思った。

「多分、無理ですよ」
「あ、下手だと思ってます?」

「そうじゃなくて、多分無理です」
「それなりに練習してきているんです。本番で悲惨なことにならないくらいには」

 さすが優等生、練習と言って来たか、と思った。勝手に練習扱いされた相手が気の毒に思う。でも無理なものは無理なのだ。
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