財閥御曹司は、深窓令嬢に一途な恋情で愛し尽くしたい。
――今から数年前。まだ、俺が御曹司ということを隠して御子柴菓子メーカーに入社して営業に配属されたばかりの頃のことだ。
「百々瀬〜! 営業行くぞ」
「はい!」
俺は、母親の旧姓である百々瀬として働いていて先輩に扱かれて毎日送っていた。
御曹司だと知られていた学生時代は肩書きもルックスも成績も良かったためにまぁチヤホヤされ怒られたともなかったが、百々瀬と名乗ってる俺は平社員で怒られ三昧。
ミスがミスを呼び、大失態を起こした。先輩と一緒に謝りに行き、事なきを得た。その後に、連れて行ってもらったのが会社の近くにあるパン屋さんだった。
「百々瀬、ここめちゃくちゃ美味しいんだよ。ここでパン食べたら、一生ここ以外でパンは食べられなくなるよ」
「そんなにうまいんですか?」
「美味しいよ、とっても」
そのパン屋こそ、愛百合ちゃんのお母さんが営むパン屋だった。