公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
変わらない事実(アルーグ視点)
事実を知った俺は、ただ茫然としていた。
彼女への屈折した思いや父への失望。それらの感情が混ざり合って、どうすることもできなくなったのである。
「ふっ……」
やっとのことで出てきたのは、乾いた笑いだけだった。
既に、使用人も去った自室にて、俺は笑っていた。最早、そうするしかなかったのだ。
「……だが、これが事実であるというは変わらない」
一しきり笑ってから、俺はゆっくりと立ち上がった。
どれだけ信じたくなくても、事実は変わらない。父とあの人の間には、隠し子がいる。ラーデイン公爵家を継ぐ者がいるのだ。
それは、なんとかしなければならない問題である。貴族として、俺は行動をしなければならないのだ。
◇◇◇
「それで、どうして私にそのことを?」
俺は、カーティアに判明した事実を打ち明けていた。それを聞いて、彼女は少し驚いているようだ。
それは、そうだろう。今俺が話したのは、俺自身にとってもラーデイン公爵家にとっても秘密にしておきたいことだ。
だが、俺は彼女には言っておくべきだと思った。それが、彼女に対するせめてもの義理であると思ったのである。
「俺の思いは、以前話した通りだ。故に、俺は行動する前にお前にだけは伝えておかなければならないと思ったのだ」
「婚約者に対して、義理を通そうという訳ですか?」
「そういうことになるな……」
俺の言葉に対して、カーティアは少し怒っているようだ。
それは、当然だろう。俺はこれから、かつて思っていた人と接触しようとしている。それは、婚約者の彼女にとっては不快なはずだ。
「彼女と会って、どうされるのですか?」
「……彼女の娘について、議論するつもりだ」
「それはつまり、その子を公爵家に迎え入れようということですか?」
「……いや、そういう訳ではない」
カーティアの質問に対して、俺は少したどたどしく答えた。
自分の中でも、まだ考えが完全にまとまっている訳ではない。その迷いが、俺の答えを少し曖昧なものにしてしまっているのだろう。
「カーティア、お前は貴族の生活を楽しいと思うか?」
「楽しいか、ですか? そうですね。楽しいとは思いません。豊であるとは思いますが」
「その生活に、農民の……それも、隠し子を招き入れて、それが幸福な結果を生むとお前は思うか?」
「それは、怪しい所だと思います」
「やはり、そうか……」
俺は、ずっと考えていた。あの人と娘を、この公爵家に巻き込むべきなのかどうかを。
そうすることで何が起こるかは明白である。隠し子と浮気相手、そんな二人の立場は悪くなるだろう。
そうなった場合、そこに生まれるのは憎しみだけだ。その憎しみを、わざわざ生み出す必要があるのだろうか。
「……いや、結局の所、俺はこの公爵が壊れていく様を見たくないだけなのかもしれないがな」
「アルーグ様……」
二人の存在によって公爵家が壊れること。俺は、それを恐れているのかもしれない。
正直言って、母上にこの事実を俺は伝えられそうになかった。なんと言えばいいのか、わからないのだ。
故に、俺は逃げているのかもしれない。二人の幸せを言い訳に、都合がいい方に話を持って行こうとしている。そういわれても、反論はできないだろう。
「……わかりました。アルーグ様、どうか決着をつけてきてください」
「カーティア?」
「私は、あなたを待っています。ですから、どうぞあなたの心の奥底にいるその人と会って来てください」
俺に対して、カーティアは堂々とそう宣言してきた。
その時も彼女は無表情だったが、それでも俺には彼女が複雑な感情を抱いていることが、はっきりとわかるのだった。
彼女への屈折した思いや父への失望。それらの感情が混ざり合って、どうすることもできなくなったのである。
「ふっ……」
やっとのことで出てきたのは、乾いた笑いだけだった。
既に、使用人も去った自室にて、俺は笑っていた。最早、そうするしかなかったのだ。
「……だが、これが事実であるというは変わらない」
一しきり笑ってから、俺はゆっくりと立ち上がった。
どれだけ信じたくなくても、事実は変わらない。父とあの人の間には、隠し子がいる。ラーデイン公爵家を継ぐ者がいるのだ。
それは、なんとかしなければならない問題である。貴族として、俺は行動をしなければならないのだ。
◇◇◇
「それで、どうして私にそのことを?」
俺は、カーティアに判明した事実を打ち明けていた。それを聞いて、彼女は少し驚いているようだ。
それは、そうだろう。今俺が話したのは、俺自身にとってもラーデイン公爵家にとっても秘密にしておきたいことだ。
だが、俺は彼女には言っておくべきだと思った。それが、彼女に対するせめてもの義理であると思ったのである。
「俺の思いは、以前話した通りだ。故に、俺は行動する前にお前にだけは伝えておかなければならないと思ったのだ」
「婚約者に対して、義理を通そうという訳ですか?」
「そういうことになるな……」
俺の言葉に対して、カーティアは少し怒っているようだ。
それは、当然だろう。俺はこれから、かつて思っていた人と接触しようとしている。それは、婚約者の彼女にとっては不快なはずだ。
「彼女と会って、どうされるのですか?」
「……彼女の娘について、議論するつもりだ」
「それはつまり、その子を公爵家に迎え入れようということですか?」
「……いや、そういう訳ではない」
カーティアの質問に対して、俺は少したどたどしく答えた。
自分の中でも、まだ考えが完全にまとまっている訳ではない。その迷いが、俺の答えを少し曖昧なものにしてしまっているのだろう。
「カーティア、お前は貴族の生活を楽しいと思うか?」
「楽しいか、ですか? そうですね。楽しいとは思いません。豊であるとは思いますが」
「その生活に、農民の……それも、隠し子を招き入れて、それが幸福な結果を生むとお前は思うか?」
「それは、怪しい所だと思います」
「やはり、そうか……」
俺は、ずっと考えていた。あの人と娘を、この公爵家に巻き込むべきなのかどうかを。
そうすることで何が起こるかは明白である。隠し子と浮気相手、そんな二人の立場は悪くなるだろう。
そうなった場合、そこに生まれるのは憎しみだけだ。その憎しみを、わざわざ生み出す必要があるのだろうか。
「……いや、結局の所、俺はこの公爵が壊れていく様を見たくないだけなのかもしれないがな」
「アルーグ様……」
二人の存在によって公爵家が壊れること。俺は、それを恐れているのかもしれない。
正直言って、母上にこの事実を俺は伝えられそうになかった。なんと言えばいいのか、わからないのだ。
故に、俺は逃げているのかもしれない。二人の幸せを言い訳に、都合がいい方に話を持って行こうとしている。そういわれても、反論はできないだろう。
「……わかりました。アルーグ様、どうか決着をつけてきてください」
「カーティア?」
「私は、あなたを待っています。ですから、どうぞあなたの心の奥底にいるその人と会って来てください」
俺に対して、カーティアは堂々とそう宣言してきた。
その時も彼女は無表情だったが、それでも俺には彼女が複雑な感情を抱いていることが、はっきりとわかるのだった。