魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。
17
いま聞こえた音が、港街で聞こえた音だとしたら、カロール殿下が魔法屋さんの近くに来ている。
どうしても殿下は舞踏会のときに起きた出来事で、私を捕まえて不敬罪にしたいようだ。
ふうっ。
【来るぞ、君の会いたくない奴が来る】
【はやく、ここから離れなさい】
離れなさいって、簡単にいうけど。
いま外にでて、バッタリ殿下に会ってしまわない。
謎の声は私の考えていることが変わるのか。
【……そうだな。やみくもにでても捕まるか。近くの人に頼ればいい】
近くの人、魔法屋さんのこと彼に頼れというの。この声を聞くのは二度目。子犬ちゃんを抱っこしたまま、私は謎の声と心の中で会話していた。
「ガリタ様、どうかなされましたか?」
「あ、え、っと、その……」
頭の中に聞こえる声と、話してましたなんて言えない。
【ククッ、あんがい頼りになるかもな】
頼りに? そうかも。魔法屋さんは魔法使いだから何かいい案があるかも。
「あの魔法屋さん、私……事情があって、いま、とある人物に追われているんです。その追っている方が、いま近くにいるらしくて……えっ?」
「おっ?」
そのとき、お守りがわりに付けていたブレスレットがピンク色に光る。そのブレスレットに魔法屋さんが食い付いた。
いきなりガシッと、私の手を持ちブレスレットを見て、口早に。
「こ、これは希少な魔法石を使っていますね。んん? 誰かの魔力に反応するよう複雑な術式が組み込まれています、それも魔法式は一つじゃない……え、ええ? あなたがそうでしたか、わかりました」
このブレスレットに複雑な術式が複数?
魔法屋さんは何がわかったの?
「フフ、ククッ……そうですか、あなたが、フフ」
先輩に貰ったブレスレットを見た後から、魔法屋さんは楽しげに私を見ている。どうしたのですか? と聞いても"お気になさらないでください"としかいわない。
ーー魔法屋さんて、どこなく独自の雰囲気のある人ね。
それにしてもシエル先輩ったら、こんな高価な代物を"誕生日プレゼント"だと言って、ぶこつに箱ごと投げて渡したんだ。そんなところ先輩らしいけど……
【はやく、そこを離れろ、来るぞ】
「ガリタ様、こっちです、来てください」
「え?」
いきなり魔法屋さんに手を掴まれて、店の奥に連れていかれる。
その間も謎の声は忠告した。
【逃げろ、逃げるんだ】
連れてこられたのは倉庫の奥の白い扉。魔法屋さんは扉をコンコンコンと叩き、その扉を少し開けて中に話しかけた。
「皆さん、今から人が通ります。話しかけてもいいですが、迷惑にならないようにしてくださいね」
また魔法屋さんは「はいはい、メロンパン、くるみパン、チョコパンですね。明日のお昼に買ってきます」と、話しかけている。
「皆さん、お行儀よく待てをしてくださいね」
と言い。少し開けた扉を閉めて、魔法屋さんは私の方に振り向いた。
「いまから、ガリタ様にはこの扉の中を通ってもらいます」
「この中をですか?」
魔法屋さんはクスリと笑い、コソッと私に話した。
「実は、この扉は魔法の扉なんです」
「ま、魔法の扉?」
「はい。このなかは僕が育てているハーブ園があったり。お手伝いの妖精がいたり、変な生き物がいますが気にせず、中央の光まで進んでください。その光に入り、あなたが行きたいところを願ってください」
「……光の中で私の行きたいところ。わかりました」
「あ、子犬のことは心配いりません。明日の午後、魔氷を届けるときにお連れいたします」
【気をつけて帰れよ】
はい。
背後で魔法屋さんと不思議な声も聞こえて、バタンと扉の閉まる音がした。
ーー頬をなでる風と緑の香り?
魔法屋さんの扉の中は草木が生い茂る森の中だった。足をすすめると魔法屋さんが育てているハーブ園と言っていたけど……バジル、オレガノ、ローズマリーなど整えられたハーブ畑と、もさもさに自然にハーブが生えている畑があった。
そのハーブ園の近くに黒い猫がいて私とガッカリ目が合うと、黒猫はジャンプして尻尾をさげて、そそくさ逃げていく。
「あ、逃げちゃった」
すこし進むと、こんどはラベンダー畑がみえてきて、近くの木の枝に福ちゃんに似た、フクロウが枝にとまっていた。
「こんにちは」
「ホーホー」
(あの子は福ちゃんとは、ちがう模様のフクロウだわ)
そのあとも。ウサギのような動物、リス、ネズミ、いろんな動物に出会い、中央に向けて歩いていくと、キラキラしたものがそばに飛んできて。
「うわぁ、可愛い人間だぁ」
「本当だ、人間さんだぁ」
「ねぇねぇ、この可愛い人間からいい匂いがするぞ」
「本当だぁ、いい匂い」
この子たちは魔法屋さんが言っていた妖精かな? 手のひらサイズの大きさ、クリーム、緑、青色のお団子の髪、背中に虫の羽の生え、おそろいの緑色のワンピースを着ていた。
「人間さんは、どこまで行くの?」
「中央にある、光りのところまでだよ」
青い髪の妖精がくるりと飛び。
「ああ、この先にある"転送の光り"のところまでか」
「転送の光り?」
「うん。願うと、好きなところに行けるんだって」
「ちがう、行ったことのあるところだよ」
「そう、だったかな?」
スクスク笑い、フワリと飛ぶ妖精と並んで歩き、魔法屋さんが言っていた光りをみつけた。
「着いちゃった、ここでお別れ」
「またね、きてよ」
「人間さん、また来てね」
「またね」
私はその光りのなかに入り願うと、周りの景色が変わり、ガリタ食堂の裏庭に帰ってきていた。
どうしても殿下は舞踏会のときに起きた出来事で、私を捕まえて不敬罪にしたいようだ。
ふうっ。
【来るぞ、君の会いたくない奴が来る】
【はやく、ここから離れなさい】
離れなさいって、簡単にいうけど。
いま外にでて、バッタリ殿下に会ってしまわない。
謎の声は私の考えていることが変わるのか。
【……そうだな。やみくもにでても捕まるか。近くの人に頼ればいい】
近くの人、魔法屋さんのこと彼に頼れというの。この声を聞くのは二度目。子犬ちゃんを抱っこしたまま、私は謎の声と心の中で会話していた。
「ガリタ様、どうかなされましたか?」
「あ、え、っと、その……」
頭の中に聞こえる声と、話してましたなんて言えない。
【ククッ、あんがい頼りになるかもな】
頼りに? そうかも。魔法屋さんは魔法使いだから何かいい案があるかも。
「あの魔法屋さん、私……事情があって、いま、とある人物に追われているんです。その追っている方が、いま近くにいるらしくて……えっ?」
「おっ?」
そのとき、お守りがわりに付けていたブレスレットがピンク色に光る。そのブレスレットに魔法屋さんが食い付いた。
いきなりガシッと、私の手を持ちブレスレットを見て、口早に。
「こ、これは希少な魔法石を使っていますね。んん? 誰かの魔力に反応するよう複雑な術式が組み込まれています、それも魔法式は一つじゃない……え、ええ? あなたがそうでしたか、わかりました」
このブレスレットに複雑な術式が複数?
魔法屋さんは何がわかったの?
「フフ、ククッ……そうですか、あなたが、フフ」
先輩に貰ったブレスレットを見た後から、魔法屋さんは楽しげに私を見ている。どうしたのですか? と聞いても"お気になさらないでください"としかいわない。
ーー魔法屋さんて、どこなく独自の雰囲気のある人ね。
それにしてもシエル先輩ったら、こんな高価な代物を"誕生日プレゼント"だと言って、ぶこつに箱ごと投げて渡したんだ。そんなところ先輩らしいけど……
【はやく、そこを離れろ、来るぞ】
「ガリタ様、こっちです、来てください」
「え?」
いきなり魔法屋さんに手を掴まれて、店の奥に連れていかれる。
その間も謎の声は忠告した。
【逃げろ、逃げるんだ】
連れてこられたのは倉庫の奥の白い扉。魔法屋さんは扉をコンコンコンと叩き、その扉を少し開けて中に話しかけた。
「皆さん、今から人が通ります。話しかけてもいいですが、迷惑にならないようにしてくださいね」
また魔法屋さんは「はいはい、メロンパン、くるみパン、チョコパンですね。明日のお昼に買ってきます」と、話しかけている。
「皆さん、お行儀よく待てをしてくださいね」
と言い。少し開けた扉を閉めて、魔法屋さんは私の方に振り向いた。
「いまから、ガリタ様にはこの扉の中を通ってもらいます」
「この中をですか?」
魔法屋さんはクスリと笑い、コソッと私に話した。
「実は、この扉は魔法の扉なんです」
「ま、魔法の扉?」
「はい。このなかは僕が育てているハーブ園があったり。お手伝いの妖精がいたり、変な生き物がいますが気にせず、中央の光まで進んでください。その光に入り、あなたが行きたいところを願ってください」
「……光の中で私の行きたいところ。わかりました」
「あ、子犬のことは心配いりません。明日の午後、魔氷を届けるときにお連れいたします」
【気をつけて帰れよ】
はい。
背後で魔法屋さんと不思議な声も聞こえて、バタンと扉の閉まる音がした。
ーー頬をなでる風と緑の香り?
魔法屋さんの扉の中は草木が生い茂る森の中だった。足をすすめると魔法屋さんが育てているハーブ園と言っていたけど……バジル、オレガノ、ローズマリーなど整えられたハーブ畑と、もさもさに自然にハーブが生えている畑があった。
そのハーブ園の近くに黒い猫がいて私とガッカリ目が合うと、黒猫はジャンプして尻尾をさげて、そそくさ逃げていく。
「あ、逃げちゃった」
すこし進むと、こんどはラベンダー畑がみえてきて、近くの木の枝に福ちゃんに似た、フクロウが枝にとまっていた。
「こんにちは」
「ホーホー」
(あの子は福ちゃんとは、ちがう模様のフクロウだわ)
そのあとも。ウサギのような動物、リス、ネズミ、いろんな動物に出会い、中央に向けて歩いていくと、キラキラしたものがそばに飛んできて。
「うわぁ、可愛い人間だぁ」
「本当だ、人間さんだぁ」
「ねぇねぇ、この可愛い人間からいい匂いがするぞ」
「本当だぁ、いい匂い」
この子たちは魔法屋さんが言っていた妖精かな? 手のひらサイズの大きさ、クリーム、緑、青色のお団子の髪、背中に虫の羽の生え、おそろいの緑色のワンピースを着ていた。
「人間さんは、どこまで行くの?」
「中央にある、光りのところまでだよ」
青い髪の妖精がくるりと飛び。
「ああ、この先にある"転送の光り"のところまでか」
「転送の光り?」
「うん。願うと、好きなところに行けるんだって」
「ちがう、行ったことのあるところだよ」
「そう、だったかな?」
スクスク笑い、フワリと飛ぶ妖精と並んで歩き、魔法屋さんが言っていた光りをみつけた。
「着いちゃった、ここでお別れ」
「またね、きてよ」
「人間さん、また来てね」
「またね」
私はその光りのなかに入り願うと、周りの景色が変わり、ガリタ食堂の裏庭に帰ってきていた。