魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。
22
ーーうわっ、緊張する。
時刻は十一時すぎ。
今日はシエル先輩に貰ったこの鍵を使って、魔法屋さんに行き。弟さんにこの前のお礼と、魔法屋の店内をゆっくり見せてもらう計画。
(先輩の弟さん……連絡もなしに、いきなり行くことを許してください)
「子犬ちゃん準備はいい? 魔法屋さんに行くわよ」
「キュン」
先輩がやった通りに、貰った鍵を壁に近づけた。クローバー鍵の先から壁に波紋が広がり、部屋の壁に茶色の扉が現れた。
この扉、前に魔法屋さんでみた"魔法の扉"とは違い、手彫りの模様が入った豪華な扉だ。でも、扉の先が魔法屋さんなんだと、ドキドキしながら扉を鍵で開けようとしたけど、なぜか鍵があわない……
どうして?
「キュン?」
足元でどうしたの? と子犬ちゃんが聞いてくる。そうだ、先輩は声をかけてから入れって言っていた「おじゃまします」と、取っ手をまわすと扉がひらき、眩しい光りがさしこみ目を瞑った。
「キュ?」
(……まぶしい)
目をつむりながら扉の中に入ると。パタンと後ろで扉の閉まる音が聞こえ。自分の部屋の香りこら、森の匂い、薬草の香りがしくる。
クン、この香りって? シエル先輩と同じ匂いだと思いながら瞳を開けた……。
「……え、ええ、どこ?」
着いた先は誰かの研究室? 部屋を見渡す……近くの作業用テーブルには実験の途中なのか、見慣れない色の液体が入った、フラスコがいくつも並んでいる。
壁際にズラリと並ぶ本棚には、入りきらない本が床にあふれ平積み。その横……クローゼットは観音式の扉が開けっ放しで、着られるシャツとローブと、脱いだ服がまざり床まで溢れている。
「…………」
なによりも驚くのはーー紙が壁一面に貼られた、走り書きのメモ。
(もしかして、ここって、弟さんの実験室?:
そうかもと、声をかけた。
「シエル先輩の弟さん、魔法屋さん、お邪魔しています……」
ここには誰もいないのか返事はなく、「しつれいします」と、部屋の中に足を進めると、カサッとなにか踏んだ。
(か、紙?)
拾うと、貴族で使用される羊皮紙ではなく、良質の紙。その紙にも走り書き、ほかに複雑な紋様ーー魔法陣が描かれていた。
手書きの魔法陣?
同じように足元には魔法陣が描かれた紙が、辺り一面の床に散らばっている。
これは、足の踏み場がない。先輩の弟さん――少しは部屋の掃除をしたほうがいい、と作業台にお弁当を置き、落ちている紙を拾い集めながら、そばにいるはずの子犬ちゃんに話しかけた。
「もう、足の踏み場もないね。ここって魔法屋さんの研究室かな?」
「…………」
あれ、いつもなら「キュン」とすぐに返事をしてくれるのに……あれ? 振り返っても、近くにも、前にも、真っ黒もふもふがいない。
「うそ、子犬ちゃんがいない?」
さっきまでいた子犬ちゃんを探しながら、研究室の中を歩くと。読みかけの本が散らばるソファーに、黒髪の男性が紙に埋もれて寝ていた。
時刻は十一時すぎ。
今日はシエル先輩に貰ったこの鍵を使って、魔法屋さんに行き。弟さんにこの前のお礼と、魔法屋の店内をゆっくり見せてもらう計画。
(先輩の弟さん……連絡もなしに、いきなり行くことを許してください)
「子犬ちゃん準備はいい? 魔法屋さんに行くわよ」
「キュン」
先輩がやった通りに、貰った鍵を壁に近づけた。クローバー鍵の先から壁に波紋が広がり、部屋の壁に茶色の扉が現れた。
この扉、前に魔法屋さんでみた"魔法の扉"とは違い、手彫りの模様が入った豪華な扉だ。でも、扉の先が魔法屋さんなんだと、ドキドキしながら扉を鍵で開けようとしたけど、なぜか鍵があわない……
どうして?
「キュン?」
足元でどうしたの? と子犬ちゃんが聞いてくる。そうだ、先輩は声をかけてから入れって言っていた「おじゃまします」と、取っ手をまわすと扉がひらき、眩しい光りがさしこみ目を瞑った。
「キュ?」
(……まぶしい)
目をつむりながら扉の中に入ると。パタンと後ろで扉の閉まる音が聞こえ。自分の部屋の香りこら、森の匂い、薬草の香りがしくる。
クン、この香りって? シエル先輩と同じ匂いだと思いながら瞳を開けた……。
「……え、ええ、どこ?」
着いた先は誰かの研究室? 部屋を見渡す……近くの作業用テーブルには実験の途中なのか、見慣れない色の液体が入った、フラスコがいくつも並んでいる。
壁際にズラリと並ぶ本棚には、入りきらない本が床にあふれ平積み。その横……クローゼットは観音式の扉が開けっ放しで、着られるシャツとローブと、脱いだ服がまざり床まで溢れている。
「…………」
なによりも驚くのはーー紙が壁一面に貼られた、走り書きのメモ。
(もしかして、ここって、弟さんの実験室?:
そうかもと、声をかけた。
「シエル先輩の弟さん、魔法屋さん、お邪魔しています……」
ここには誰もいないのか返事はなく、「しつれいします」と、部屋の中に足を進めると、カサッとなにか踏んだ。
(か、紙?)
拾うと、貴族で使用される羊皮紙ではなく、良質の紙。その紙にも走り書き、ほかに複雑な紋様ーー魔法陣が描かれていた。
手書きの魔法陣?
同じように足元には魔法陣が描かれた紙が、辺り一面の床に散らばっている。
これは、足の踏み場がない。先輩の弟さん――少しは部屋の掃除をしたほうがいい、と作業台にお弁当を置き、落ちている紙を拾い集めながら、そばにいるはずの子犬ちゃんに話しかけた。
「もう、足の踏み場もないね。ここって魔法屋さんの研究室かな?」
「…………」
あれ、いつもなら「キュン」とすぐに返事をしてくれるのに……あれ? 振り返っても、近くにも、前にも、真っ黒もふもふがいない。
「うそ、子犬ちゃんがいない?」
さっきまでいた子犬ちゃんを探しながら、研究室の中を歩くと。読みかけの本が散らばるソファーに、黒髪の男性が紙に埋もれて寝ていた。