魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。
28(シエルの話)
俺は心配しているだろうと。ウルラに弁当を持って行ってもらうついでに、弟ーーラエルに、ルーのことも伝えた。
直ぐに"わかった"と連絡が返ってきて、何かあったら直ぐに使い魔のガットを、こちらに向かわせると言ってくれる。
ーーなんとも、頼もしい弟だ。
まあ、俺も自分の使い魔ウルラを近くに呼んでいる。ふぅーっ、目的の東の街までの移動に一時間半か……揺れる馬車のなかで目を瞑り考えていた。
昨日は殿下に連れ回されたあと。遅くまで、ある魔法について調べていた。夜が明け、少し仮眠をとろうとウトウト眠り始めたときに、魔法屋に行くはずだったルーが俺の研究室に現れた。
夢か現か、はたまた幻か……わからず、自分の欲望のままに従った。それが本物だったとはな……いい香りと色々と、柔らかかった。
「スースー、ムニャ? 先輩それ私の、卵焼き……ムニャムニャ」
「…………」
ハムスターのルーはいつの間にか"だらーん"とフードからはみ出て、俺の首筋でよだれを垂らして眠っていた。
(ククッ……ほんと、お前はみていて飽きないし、可愛いな)
ーーほんと、みていないと危なっかしい。
カロールかかっていた魅了を解いてしまうわ。魔法陣の写描きに触れてハムスターの姿だと? 可愛い、かわいいが……あの魔法陣でハムスターの姿なのか、こればかりはわからない。
ただ、いえるのは不完全な変化の魔法陣。魔女ナタリーが小さくて可愛いものに、ベルガーをしようとして描いたからだろうな。
しかし。思い出し、描いていくうちに、俺の奥に眠るイヤな記憶がよみがえった。
ーーあの、魔法陣の所々に見え隠れする、古代魔法の影。いまから8年、9年前。俺たちの国で戦争の原因を作った、忌々しい魔女が使用していたものに……似ている。
+
忌々し黒魔女……奴が復活したとなれば許さない。
俺の生まれはーーこの国から海を渡ったヘクセ大陸にある。周囲を森と山に囲まれた小さな魔法の国ブルッホ。その国のなかにある小さなマホ村だ。
ブルッホで生まれるものはみんな、量は違うが魔力を持って生まれる国。優しき国王と王妃がいる幸せの国だった……
その国で生まれた双子の俺とラエル。異端な黒髪で生まれて、周りからは呪われた黒髪の双子だとか、異端児兄弟と呼ばれていた。
マカ村の人々からは煙たがられていたが、魔法学者の父と母と、村はずれの一軒家に住んでいた。
もちろん、この見た目のせいで学校には通えず、父が先生となり魔法の使い方や、魔力調整などを教えてくれた。俺達が5歳になる頃には念話を使い、ラエルと二人で話すようになっていた。
〈また、アイツら俺たちの悪口言っていたな〉
〈そうだね。あの子たちの靴の中に、踏むと煙が出る、モクモク玉を仕込んで置いたよ〉
〈モクモク玉か……ククッ、いまごろアイツら驚いているな〉
〈フフ、驚いているよ〉
そばにラエルがいれば学校に行けずとも幸せだった。二人で魔法を勉強して父の書庫に籠る、食事は毎食みんなで食べて、どんな些細なことでも話す。
ーーたのしい、毎日を送っていた。
その何の変哲もない、幸せな日々が変わる。
俺達が7歳のときに、優しき王妃が病気で亡くなった。国中が喪に服し、国王は嘆き悲しんでいたはずだった。しかし、一ヶ月足らずで次の王妃が決まったのだ。嘆き、悲しんでいた国王はなぜ? ……国民は戸惑い、驚いていた。
だが、心優しき国王がお選びになった王妃なのだからと、新しき王妃をみんなは歓迎した。
ーー季節は初夏、王妃の誕生を祝う日。
ブルッホの王都では盛大な祭りが行われて、大勢の国民が集まり、新しい王妃を祝った。俺達も目立たないように、魔法で髪色を変えて両親と祝いの花が舞う王都に来ていた。
〈ラエル、すごく綺麗だな〉
〈うん、とても綺麗〉
みんなが見守るなか、城のバルコニーに国王陛下と王妃が現れた。国民は歓声を上げて新しい王妃に喜んだ。俺達もと両親と共にバルコニーが見える、ところまで進もうとして足が止まる。
新しい王妃の周りに、どす黒いモヤが見え隠れしていた。
〈な、なんだあれは人か?〉
〈わかんないけど、気味が悪いね〉
そして、バルコニーに現れたのは虚な目をした国王陛下と、真っ赤な紅を唇に引き真っ黒なローブドレスを身に纏った王妃。
この異様な雰囲気に、祝福ムードの国民はみんな声を止めた。ざわざわと騒ぎ始める国民に王妃は口を開く。
「愚民ども、魔力を持つ子供をわたくしの元に寄越しなさい。わたくしが美味しく調理して食べてあげる」
その発せられた言葉に国民は危機を感知し、子供を連れて逃げようとしたが、王妃が手を上げた途端、空には王都を覆うくらいの大きな魔法陣が浮かんだ。
子供たちはその魔法陣に、吸い込まれるように空に浮かんでいく、両親は俺達を守ろうと抱きしめたが……その両親の周りに黒い霧が立ち込め始めた。
「クッ!」
苦しみの声を上げて、バタリと横の家族連れの父親が倒れた。つぎつぎと子供を残して大人達が倒れていき、無防備になった子供達は何もできず空に浮く。
王都の市中は子供達の悲鳴と、大人たちのうめき声がこだました。
〈ラエル、やばいぞ!〉
〈兄さん……!〉
「シエル、ラエル……逃げ……な……さい」
「「お父さん、お母さん!」」
俺達を守るように抱きしめていた、両親の腕の力が抜けてバタリと倒れた。
〈クソッ、逃げれない!〉
俺は怯える弟の手を繋ぎ、抱きしめた。
直ぐに"わかった"と連絡が返ってきて、何かあったら直ぐに使い魔のガットを、こちらに向かわせると言ってくれる。
ーーなんとも、頼もしい弟だ。
まあ、俺も自分の使い魔ウルラを近くに呼んでいる。ふぅーっ、目的の東の街までの移動に一時間半か……揺れる馬車のなかで目を瞑り考えていた。
昨日は殿下に連れ回されたあと。遅くまで、ある魔法について調べていた。夜が明け、少し仮眠をとろうとウトウト眠り始めたときに、魔法屋に行くはずだったルーが俺の研究室に現れた。
夢か現か、はたまた幻か……わからず、自分の欲望のままに従った。それが本物だったとはな……いい香りと色々と、柔らかかった。
「スースー、ムニャ? 先輩それ私の、卵焼き……ムニャムニャ」
「…………」
ハムスターのルーはいつの間にか"だらーん"とフードからはみ出て、俺の首筋でよだれを垂らして眠っていた。
(ククッ……ほんと、お前はみていて飽きないし、可愛いな)
ーーほんと、みていないと危なっかしい。
カロールかかっていた魅了を解いてしまうわ。魔法陣の写描きに触れてハムスターの姿だと? 可愛い、かわいいが……あの魔法陣でハムスターの姿なのか、こればかりはわからない。
ただ、いえるのは不完全な変化の魔法陣。魔女ナタリーが小さくて可愛いものに、ベルガーをしようとして描いたからだろうな。
しかし。思い出し、描いていくうちに、俺の奥に眠るイヤな記憶がよみがえった。
ーーあの、魔法陣の所々に見え隠れする、古代魔法の影。いまから8年、9年前。俺たちの国で戦争の原因を作った、忌々しい魔女が使用していたものに……似ている。
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忌々し黒魔女……奴が復活したとなれば許さない。
俺の生まれはーーこの国から海を渡ったヘクセ大陸にある。周囲を森と山に囲まれた小さな魔法の国ブルッホ。その国のなかにある小さなマホ村だ。
ブルッホで生まれるものはみんな、量は違うが魔力を持って生まれる国。優しき国王と王妃がいる幸せの国だった……
その国で生まれた双子の俺とラエル。異端な黒髪で生まれて、周りからは呪われた黒髪の双子だとか、異端児兄弟と呼ばれていた。
マカ村の人々からは煙たがられていたが、魔法学者の父と母と、村はずれの一軒家に住んでいた。
もちろん、この見た目のせいで学校には通えず、父が先生となり魔法の使い方や、魔力調整などを教えてくれた。俺達が5歳になる頃には念話を使い、ラエルと二人で話すようになっていた。
〈また、アイツら俺たちの悪口言っていたな〉
〈そうだね。あの子たちの靴の中に、踏むと煙が出る、モクモク玉を仕込んで置いたよ〉
〈モクモク玉か……ククッ、いまごろアイツら驚いているな〉
〈フフ、驚いているよ〉
そばにラエルがいれば学校に行けずとも幸せだった。二人で魔法を勉強して父の書庫に籠る、食事は毎食みんなで食べて、どんな些細なことでも話す。
ーーたのしい、毎日を送っていた。
その何の変哲もない、幸せな日々が変わる。
俺達が7歳のときに、優しき王妃が病気で亡くなった。国中が喪に服し、国王は嘆き悲しんでいたはずだった。しかし、一ヶ月足らずで次の王妃が決まったのだ。嘆き、悲しんでいた国王はなぜ? ……国民は戸惑い、驚いていた。
だが、心優しき国王がお選びになった王妃なのだからと、新しき王妃をみんなは歓迎した。
ーー季節は初夏、王妃の誕生を祝う日。
ブルッホの王都では盛大な祭りが行われて、大勢の国民が集まり、新しい王妃を祝った。俺達も目立たないように、魔法で髪色を変えて両親と祝いの花が舞う王都に来ていた。
〈ラエル、すごく綺麗だな〉
〈うん、とても綺麗〉
みんなが見守るなか、城のバルコニーに国王陛下と王妃が現れた。国民は歓声を上げて新しい王妃に喜んだ。俺達もと両親と共にバルコニーが見える、ところまで進もうとして足が止まる。
新しい王妃の周りに、どす黒いモヤが見え隠れしていた。
〈な、なんだあれは人か?〉
〈わかんないけど、気味が悪いね〉
そして、バルコニーに現れたのは虚な目をした国王陛下と、真っ赤な紅を唇に引き真っ黒なローブドレスを身に纏った王妃。
この異様な雰囲気に、祝福ムードの国民はみんな声を止めた。ざわざわと騒ぎ始める国民に王妃は口を開く。
「愚民ども、魔力を持つ子供をわたくしの元に寄越しなさい。わたくしが美味しく調理して食べてあげる」
その発せられた言葉に国民は危機を感知し、子供を連れて逃げようとしたが、王妃が手を上げた途端、空には王都を覆うくらいの大きな魔法陣が浮かんだ。
子供たちはその魔法陣に、吸い込まれるように空に浮かんでいく、両親は俺達を守ろうと抱きしめたが……その両親の周りに黒い霧が立ち込め始めた。
「クッ!」
苦しみの声を上げて、バタリと横の家族連れの父親が倒れた。つぎつぎと子供を残して大人達が倒れていき、無防備になった子供達は何もできず空に浮く。
王都の市中は子供達の悲鳴と、大人たちのうめき声がこだました。
〈ラエル、やばいぞ!〉
〈兄さん……!〉
「シエル、ラエル……逃げ……な……さい」
「「お父さん、お母さん!」」
俺達を守るように抱きしめていた、両親の腕の力が抜けてバタリと倒れた。
〈クソッ、逃げれない!〉
俺は怯える弟の手を繋ぎ、抱きしめた。