魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。

33

 今朝はコツコツ、コツコツと窓をこつく音で目が覚める。この音は福ちゃんだな、今日はいつもより来る時間がの早くない。

「…………んん、ん?」

 それに小説、漫画などでは私の姿が元に戻り、先輩にくっ付いて寝ているという、お決まりのパターンを密かに期待したのに。この大きさは元に戻らずハムスターのままみたいだ。

 コツコツ、コツコツ起きろと言うばかりに、窓をこつく福ちゃん――その音に先輩の眉間にシワがよる。

「ウルラ、うるさい、ぞ……」

「ウルラ?」

 私の声に「あっ」と叫び、パチリと目が開き先輩の赤い瞳が私を捉えた。

「そうだ、ルーの部屋だった……おはよう、ルー」

「おはようございます、シエル先輩。起きたところ悪いのだけど、海側の窓まで連れていってください」

 コツコツコツ、コツ

 ほら、起きないと福ちゃんはいつまでも窓をこつく。先輩も海側の窓に映る影をみて頷き、私を肩に乗せて、海側の窓まで連れていってもらい、開けた窓の窓枠に飛び乗った。

「福ちゃん、おはよう」

「ホーホー」

「今日はやけに小さいですって? そりゃ、ハムスターだもの、小さいよ。福ちゃんあのね、私、魔法にかかっちゃったみたいなの」

「ホーホー」

「ええ? 小さくて美味しそうだって、食べないでよ」

「ホー?」

「なになに? 後ろにいる男は私の彼氏かって? えーっと、先輩が彼氏?」

 答えられずに慌ててると、先輩が私をやさしく掴み。

「そうだ、福」

 と、窓を閉めてしまった。

「あ、シエル先輩、まだ挨拶の途中だよ」

「フクロウに人間の言葉が通じるか……よ。朝飯にするぞ」

「そうだけど、福ちゃんは普通のふくろうとは違うの」

「ふくろうはフクロウだ!」

 いくら違うって、反論しても聞く耳を持ってくれない。じゃーなぜ? 先輩は言葉が通じないと言ったのに、福ちゃんに彼氏だと言ったのよ! と、心の中で叫び、頬だけ膨らませた。

「どうした?」
「どうもしない」

「ほらっ、くるみパン」

「ありがとう……あ、」

 そうだ、いま朝の何時? 時計を見ると、五時を少し回ったところ。急いで支度して、もう少ししたら、したら下に降りないと。

 ここで"ハッ"と気付く。

 ハムスターの私に店の仕込みの手伝いと、仕事ができる? せいぜいできでも「女将さん、ひまわりの種を剥きました」……だなんて、無理がありすぎる。

「先輩、シエル先輩、今日は仕事の日だよ。お店に仕込みに行かなくちゃ」

 そう伝えると、シエル先輩の動きが止まった。
 どうやら、先輩も忘れていたみたいだ。
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