魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。

50

 子犬ちゃんが王子……私が彼に色々してきたことを思いだした。いくら、知らなかったとはいえ――それは王子に対してするようなことではない。

「失礼いたしました……ベルーガ・ストレーガ殿下」

 先輩に捕まる子犬ちゃんにスカートを持って、会釈した――しかし、その姿を見て子犬ちゃんは苦笑い。

「やめて、ルーチェちゃんはいつものように接して、変にかしこまらくていいよ」

「え、でも。私は知らずとはいえ……ベルーガ殿下に色々と失礼な事をしてしまって……いま思い出しても、恥ずかしい」

 その私の言葉に、黒い霧を纏ったシエル先輩に気付かず。私はあせって、ベラベラと話してしまう。

「ベルーガ王子を可愛いと抱っこしたり、モフモフのお腹に顔を埋めたこともあったし、可愛いお尻も尻尾も撫で、それに……」

「ま、、ま、まって、待て、ルーチェちゃんそれ以上は言わなくていい!」

 子犬ちゃんは慌てて小さな手を振り、私の言葉を阻止した。

「それは、もう済んだことなんだから、シエルもそう怒るなよ」

「別に怒っていない――少し、羨ましいだけだ」
「羨ましいって、シエルさん、それは本音?」

「本音だ!」

「だったら、私はシエルさんの香りが好きだから、ハグしたり、膝枕、デート……お腹に顔は……埋めたいかな……あ、それ、ちがっ」

 スルッと変なことが(願望)口がら出てしまい、両手で口を覆った。驚き表情の先輩と笑うラエルさん、ニシシッと子犬ちゃん。

「シエル、気を付けろ。ルーチェちゃんのスキンシップ、結構激しいから」

「茶化すな、ベルーガ!」

「ちょっと待って、私のスキンシップは激しくなんかないから。それに子犬になら誰だってするでしょう? しない? するよね」

「本物の子犬になら……するかもしれないが。コイツにはしない」
 
「僕もしたくないです」 

「お前らしろよ、今のオレはモコモコ、モフモフで、触り心地がよく、なにより可愛い!」

 キラキラな笑顔で、自慢げに言う子犬ちゃん。

 ウンウン、可愛い。子犬ちゃんの言う通りモコモコのモフモフだよ――絶対する、しないの? するわけない。しない。と言い合う。その横で、子犬ちゃんはお腹を抱え笑っていた。

「絶対するもん!」

「ク、クク、ルーには負けるなぁ」

「そうだね。フフ、ハハハッ……兄貴以外と言い合うのは初めてで楽しいね、……でも、ベルーガ、兄貴、ルーチェさんも。夜も遅いから、早く大切な話をしなくちゃいけないかも」

「そうだな、ラエル」

 
 


 

 私達は奥のキッチンに移動して話すことにした。先輩がキッチンで紅茶を入れ、テーブルについたラエルさんが話をはじめる。

「ルーチェさん、いまから大切な話をするね。ベルーガはいま元気にしてるけど……仔犬の姿にされ、そのうえ元婚約者に呪いをかけられているんだ……んー、魔力訓練を受けていない、ルーチェさんには見えないと思うけど。子犬の額に……ん? んん? どうして? あ、兄貴、ベルーガを見て」

 先輩はラエルさんに言われて手を止め、子犬ちゃーをじっくり見た。一瞬目を開き。子犬ちゃんを持ち上げお尻、お腹、顔、を何度も角度を変え、2人で確認しはじめる。

 いきなり、体をチェックされた子犬ちゃん。

「ちょっ、シエル、ラエル、ルーチェちゃんの前でこの格好はやめろ、恥ずかしい!」

 子犬ちゃんがいくら"やめて"と言っても、二人はやめずに、体のあちこちを確認する。

「おかしい。額に見えていた呪いの魔法陣が消えている……しかも、魔法陣が半分以上……雑に何かで拭き取られている。どういうことだ? ベルーガ?」

「お、オレに聞かれても知らないよ!」

 子犬ちゃんは首を振り、次に先輩は私を見た。

「ルー、お前……ベルーガに何かしたか? ほら、体を触るとか、何かで拭くとか?」

 何かで拭く? そういえば。

「このまえ泊まりに来た時に2人でじゃれあって、汗をかいたから、タオルで子犬ちゃんの体は拭いたけど……」

 先輩とラエルさんは顔を見合わせて。
 
「「それだ!」」

 と、声をハモらせた。
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