日給10万の結婚
「奥様の甘い物嫌いは、あの会に参加したことある人なら誰しもが知ってることです。とはいえ、昔は好きだったみたいですけどね。私の母も招待されていたけど、そのころは甘いものが大好きだったらしくて。いつの頃からか、食べすぎてみるのも嫌になったということで、手土産もお花に変わっていったみたいです」

 今日、倫子さんと会ってよかったと、つくづく思った。あのまま楓さんの思惑にハマるところだった。甘い物が好きだったのは昔のことで、今はむしろ嫌いになってしまった。土産は花にまつわるものがいい、と……。

 だが、ふと気になる。甘い物って、食べすぎて嫌いになる事なんてあるだろうか。そりゃ、しばらくはいらない、ということはよくあるけど。それか、年齢を重ねるにつれて食べられなくなったとかかな。それならよくあることだ。

 倫子さんが思い出したように言った。

「奥様は華道が趣味と言いましたが、その場で花を生けるのがお決まりです。生け花についての知識などもあったほうがいいかもしれません」

「なるほど……!」

「あ、そうだ。これまで何度か参加したときの写真が家にあるんです。探して送りますよ」

「い、いいんですか!?」

「これくらい。舞香さんを応援するって言ったでしょう」
 
 笑って言ってくれる。ここ最近、女性といえば、マミーか楓さんぐらいしか接していないかったので、倫子さんの天使っぷりが染みてしょうがない。

 倫子さんは私に力強く言った。

「頑張ってください、舞香さんならきっと大丈夫です」

「ありがとうございます!」

 私は頭を深々と下げた。






「お前の行動力には感服する」

 玲は珍しく私をほめちぎった。私は手に持った写真をじっと眺めながら答える。

「てうゆうか倫子さんがほんといい人で。またお茶しましょうって約束しちゃった。ああいうのが理想」

「俺はあんまり会ったことないんだけど……まあ確かにおっとりした感じの人だったな。でも、まさか吉岡までもがうちの母親の回しものになってたりしないよな?」

 不安そうに玲が言う。彼の疑り深さに少し笑い、私は持っていた写真を見せた。

「それはないね。これ、今までのお茶会の写真なんだって。なるべく早く見たいですよねって気遣ってくれて、お茶のあと吉岡さんの家まで一緒に行ったんだよね」

「え。お前家にお呼ばれまでしたの? まじで仲良しかよ」
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