日給10万の結婚
いざ、出陣
空は晴れ渡り、雲一つない快晴だった。気持ちのよい青空の下で、私は空を仰いで大きく深呼吸した。美味しい酸素が体中にいきわたる感覚になる。ベランダの扉を閉め、中に入ってみると、不安げな顔をした玲が私を見ていた。玲のこんな顔を見たのは初めてのことで、私はつい笑ってしまった。
近くに置いてある鞄を手に取りながら言う。
「玲もそんな不安そうな顔するんだ」
「当然だろ。俺は行けない、現場の様子を見られない。心臓が痛くて敵わない」
顔を歪めてそう言う。今日という日が近づくにすれ、玲は分かりやすくそわそわしていた。この日のために準備は滞りなく行ったし、万全の状態と言える。
だがもちろん、不安がないと言えば嘘になる。思い切った選択をしたのは私だし、玲もよくそれを許してくれたなと思う。それに何より、マミーと楓さんの存在は怖すぎる。
でも行くしかないのだし、どうせ戦いに臨むなら思いきり戦いたい。無難な戦など、私らしくないと思うのだ。
「まあ、大丈夫だよ、って胸を張って言えないけどね。失敗する可能性も大いにある」
「お前は攻めるタイプだからな。リスクが伴うのは仕方ない」
「失敗したら、慰めてくれる?」
私が笑って言うと、彼は片方の眉を下げて顔を緩めた。
「任せろ、得意分野だ」
「嘘つけ、苦手でしょう」
「何がだ、滅茶苦茶優しく励ましてやるから」
「玲らしくない、逆にキモい」
「お前さあ……」
私は笑いながら忘れ物がないか最終チェックを行う。そして鏡の前で格好も確認すると、時計を見て頷いた。
「よし、行こう玲!」
私達二人が寝室から出る。ほぼ同時に、リビングから圭吾さんが顔をひょこッと出した。彼もやや緊張の面持ちである。