日給10万の結婚
「伊集院様、ご無沙汰しております。この度はお誕生日おめでとうございます」

「ああ、吉岡の」

「倫子です。舞香さんとも親しくさせていただいております。舞香さんは以前、私の娘が窒息死しそうな時、素早く対処してくださり、命を助けてもらったんです。本当に素晴らしかったんですよ、ここの会場にいる人もそのシーンを見ていた方は多いんじゃないかしら」

「まあ、命を?」

 伊集院さんが目を丸くした。倫子さんは頷く。

「うちの娘と、伊集院様のお孫さんは同じ年でしたね」

「ええ、そうでした」

「気を付けてくださいね、もう大きくなったから、窒息の心配なんてないと思っておりましたの。ブドウが喉に入ってしまったようで」

「それは大変でしたね。孫にそんなことがあったらと思うと、ぞっとしてしまいます」

 倫子さんに、今度ゆっくりお礼をしようと心で決意した。ありがとうございます、少しは私の印象が良くなったように見えます。倫子さん、まじ天使。

 そんな二人の話をマミーと楓さんが真顔で聞いている。そして、楓さんが割って入った。

「私も現場におりました、舞香さん本当に素晴らしかったんですよ。こんなに素敵な女性がいるのかとうっとりしてしまいました」

 どの口が言うんだこの女は。恐ろしいにもほどがある。

「ああ、そうだわ、伊集院様、舞香さんにお花を活けて貰ってみてはどうでしょうか? きっと舞香さんなら素晴らしい腕をお持ちでしょうから」

 楓さんとマミーが、ギラリとした目でこちらを見た。楽しそうで、何かを期待しているような卑しい目だった。

 伊集院さんはしばらく考え込む。

「……では、準備もしてありますので、見せて頂こうかしら。それを見れば色々分かると思いますから」

「ええ、ぜひ!」

 二人は声をそろえて言った。私は流石に緊張してくる。倫子さんが心配そうに見ていたが、微笑んで答えた。

 庭に準備がしてあるようで、私たちは外へと出た。なんでもいいけど、置いてあるツマミたち、早く食べないと乾いちゃうと思うんだなあ。早く私が尻尾を丸めて逃げる姿を見たいのだろう。まだお茶会始まって数十分だっての、我慢ならないものか。
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