日給10万の結婚
「あの、どういうことでしょうか?」
「ああ、服部……いえ、二階堂舞香さんは、私の華道教室の生徒なんです」
「は、はい?」
驚愕の目で二人が私を見る。伊集院さんが続けた。
「少し前に入会された方で、とても熱心に頑張っていらっしゃった方です。最初本当に何も知らなかったようで、一から私がレッスンしたのです。まだまだ甘い所はありますが、入った時に比べたらずっと上達しましたよ。でも、なぜ素性を明かさなかったのです?」
「私を二階堂の人間とは知らずに、ただの教え子として接していただきたかったのです。先生は生徒の身分で忖度するような方ではないと存じ上げておりますが、それでもやりづらいところがあるかと思って……ビシバシとご指導頂きたかったのです」
「まあ」
「先ほどお義母さまが言っていた通り、私は恥ずかしながら育ちがいいとは言えず、花の素晴らしさも知らずに生きて来まして……先生の誕生会に参加することになり、どんな方なのだろうと見た時、先生の活けた花に感動したんです。どうしても先生に教わりたい、と思って、素性を隠して通ってしまったんです。騙すような形になり、申し訳ありませんでした」
私は深々と頭を下げた。
華道を学ぶ、となった時、玲はどっかの講師を雇うと言ったのを、私は止めた。いっそ伊集院さんの教室へ通ってやればいいと思ったのだ。
たった一か月学んだだけでは、どう頑張っても成長しきれない。でも、それが自分の教え子の成果ならば、話は別だと思った。結果だけではなく過程を見れば、人は感情移入しやすくなる。
ただこの作戦、大きなリスクもあった。自分の誕生会に参加すると決まった後に生徒として入会してくるなんて、気に入られたい気持ちがバレバレで、計算高く強かな女と引かれてしまう可能性が高かったのだ。まあ、実際取り入ろうと頑張った結果なので、そう思われても仕方ないとも言える。
なのでまずは素性を隠して、とにかくこの一か月頑張った。あのパーティーは都合が悪く欠席したらしいので、顔バレせずに済んだのだ。誰よりも熱心に勉強したし、家でも練習しまくった。ちなみに、華道って結構楽しいかも、と思ってきているので、才能があるかどうかはともかく、案外向いていたのかもしれない。努力してしまくって、伊集院さんにその成果を見せた。
好きで教室を開いているくらいなのだから、きっと一生懸命頑張ってる生徒には優しくなるはず、そう信じて。
今回の私の動きが凶と出るか吉と出るかは、正直賭けだった。
さて……どうだろう。