日給10万の結婚
誕生会は滞りなく行われた。
途中から用意してあった軽食も頂き、お腹も膨らませる。そのあと伊集院さんが生け花を披露し、拍手で包まれる。ぶっちゃけたところ、気も遣うしうふふと上品な人たちばかりの会はとても疲れたし、楽しいとは思えなかったが、常に倫子さんはそばにいてくれたし、伊集院さんにも嫌な印象は持たれていないようだったので、思ったよりは肩の力を抜いて参加できていた。
畑山さんに教わった礼儀作法も気を付け、多分やらかしてはいない。途中、マミーや楓さんが問題を出すかのように難しい話題を振ってきたが、全部畑山学習に入っていた項目なので、スムーズに答えることが出来、むしろ伊集院さんに感心された。
伊集院さんにそれなりに気に入られている私を、堂々と嵌める事も出来ない楓さんたちは、引きつった顔で対応するしかないようだった。
終わりの時間が来て、伊集院さんが最後の挨拶を行った。そして、ようやく解散となる。伊集院さんとは、また華道教室で会いましょうと言葉を交わし、私たちはやっと外へ出た。
帰りはまた圭吾さんと玲が迎えに来てくれることになっていた。玄関から外へ出ると、見慣れた車がすでに停まっていることに気づき、ほっと息をつく。私は車に駆け寄る前に、隣にいた倫子さんに向き直って頭を下げた。
「倫子さん、今日とても心強かったです。本当にありがとうございました」
「そんな、私は何もしてないですよ! ほら、言ったでしょう、伊集院様は必ず舞香さんを気に入るって。さすがでした」
「もうほんと、倫子さんがいなかったらガクブルでしたよー」
「あは、ガクブルって」
私たちは笑いあう。金持ちの女って、マミーたちのせいで嫌なイメージを持っていたけど、倫子さんや伊集院さんみたいないい人もいるんだよね。先入観はいけないな。
私たちはまたお茶をする約束をし、その場で別れる。そしてようやく、自分の車に駆け寄った。私が近づくと、中から玲が降りてくる。待ちきれない、という顔だ。そわそわと心配そう。そんな玲が面白くて嬉しくて、私は笑った。
「玲!」
「おかえり」
彼に近寄る。玲は眉を下げて私に尋ねた。
「どうだった、大丈夫だったか」
「教室に通ってよかった」
「まじか! まあ、舞香滅茶苦茶頑張ってたからな」
「私自身ちょっとハマってるっていうのもあるんだよね」
「今更だけどゴリラが生け花て」
「ちょっと黙れや」
そう言いながら車に乗り込もうとする。すると、背後から声を掛けられた。