日給10万の結婚
「玲さんと、どうなんですか」

「え?」

「僕から見て、二人は初めの頃よりずっと夫婦らしいです。それは外面だけではなく、この部屋にいるときだってそう。夫婦のフリをしなくてもいい場所でも、二人は息ピッタリです。もしかして契約の話は終わりになって、本当の夫婦になるんじゃないかとここ最近ずっと思ってました」

 そう言われて驚いた。圭吾さんからそんなふうに見えていたのは意外だった。確かに、息が合っているとは言われていたが、小学生のような口喧嘩を面白がっているだけかと思っていた。

 本当の夫婦になる、なんて。

 私は苦笑いをする。

「ないです」

「え? でも」

「少なくとも玲はそんなふうには思ってないと思います。今回の非常事態がなく、お義母さまも楓さんとの結婚をあきらめてくれたら、約束通り離婚してたと思います」

 圭吾さんが黙り込む。私は小さく唇を噛んだ。

「もしこの計画が駄目になったら、玲は結局あれだけ嫌がってた相手と結婚させられるのかと思うと……どうしていいか分からないんです。本当に終わりになって、お義母さまが借金の肩代わりをしてくれるとなったとしても、私は受け取れないです。何十年かかっても、自分の力でお金はどうにかしたい。結局玲の力にはなれなかったのに、自分だけ元の生活に戻るなんて……私にはできない」

 これからどうなるんだろう。玲と離婚することになったら、彼の人生はどう変わるのだろう。

 私だけ普通に生きるなんて出来ない。彼の力になりたかったのに。

 圭吾さんが静かな声で言った。

「まだ終わりと決まったわけじゃないです」

「でもさすがに言い逃れ出来ません」

「ううん……」

「誤魔化しが効かないところまで来てしまってます。初めから、私が相手じゃダメだったのかも……もっとちゃんとした人の方が、うまく行ってた可能性が」

「普通の女性だったら、あの二人に睨まれた時点で終わりでしたよ」
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