日給10万の結婚
「んで本題。これから俺の住む家に向かう」

「家ってもしかして」

「俺は今一人暮らし中だから、親がいるわけじゃない」

 ほっと胸を撫でおろす。よかった、急にご両親と対面するにはさすがに急すぎる。と、二階堂さんが鼻で笑った。

「てゆうか今のお前の格好じゃ会わせられないから」

 むっとして横を向いた。そりゃ安物の服ですけどね!? そんな言い方ある!? さっき優しいな、なんて思ったのが嘘のように嫌な男だ!

「どーせ二階堂の金持ちさんには理解できないでしょうね、この貧乏服!」

「まあできないね」

「全身合わせて三千円ですよどう!?」

「どう、じゃねえよ、企業努力した店が凄いだけだ」

「正論」

「てか今更だけどさ、今付き合ってるやつとかいないの?」

 突然ぶっこんできた。そこで、もう記憶の奥底に沈められていた今日の出来事を思い出したのだ。そうだ私、二股掛けられて振られたんだっけ。落ち込む暇もなかった。

「丁度今日いなくなりました」

「今日!?」

「他に好きな子がいる、二股掛けてたと振られた直後家には借金取りが来て」

 丁度赤信号になり、車が停まる。と同時に、二階堂さんがハンドルを握ったまま大声で笑いだした。ちょっと、笑うところではないと思うのだが?

「ちょっと待て、何だその人生は!」

「こっちが聞きたいよ、こんな確率ある!?」

「いやすげーわ。ドラマみたい」

「笑い事じゃない」

 膨れてそう言う。二階堂さんは未だ笑いながら言った。

「それでもこれだけ凛としてるお前は凄い」

「どうも」

「俺が今日お前の家に行ったのはたまたまなわけ。玄関の扉が開けっ放しで、中の声は丸聞こえ。何事かと思って聞いてたら、父親の借金取りが来てるなんてな。父親どうした。母親はいなかったよな?」

「お母さんは子供の頃に蒸発、父親は私が社会人になった途端蒸発」

「おいおい」

「いいの、昔からクズって分かってたから。いなくなるのは結構だけど、まさかあんな借金を作ってるなんて信じられない」
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