日給10万の結婚
「だからといって、もっといい人がいたのかもと思うと」

「『少なくとも玲はそんなふうに思ってない』。さっき舞香さんは言いましたね。舞香さんは思ってるってことですね」

 突然そう指摘された。ハッとして彼の方を見る。

 圭吾さんは真剣な面持ちで私を見ていた。返答に困り、言葉を飲み込む。

「……え、っと」

「玲さんの事を凄く考えてるんだ、ってよく分かる言葉たちでした」

「いえ。私の気持ちはどうだっていいんです。どんな気持ちがあっても結果は変わらない」

「僕は二人の気持ちは重要だと思ってます」

 圭吾さんが諭すようにゆっくりと言った。愛でもあれば、他に道がある、とでも言いたいのだろうか。

 私はつい小さく笑った。

 人にキスしといて、ごめん、って謝って去り、私を避けだした人に愛などあるわけがないのだ。

 一緒にいることで私に愛着ぐらい沸いたと思うが、それは間違いなく愛ではない。

「振られてます」

 私はきっぱり言った。圭吾さんは一つ頷く。

「はい…………ん!?」

「ほぼ振られてますから、私たちが夫婦になることはないです」

「ん!!??」

 圭吾さんが目を丸くして固まった。きまずくなった自分はようやく紅茶を少し飲む。

「んーと、私が間接的に告白っぽいことしちゃって。そのあと、玲もそのー、まんざらでもなさそうな態度したんですけど、結局ごめんって言われて、そのまま避けるように急遽出張へ」

「ん???」

「なので、はい。私たちの関係は初めから何も変わってないです。そもそも、一つ屋根の下にいながら数か月何も変わってない時点で、もう進展はないじゃないですか」

 頬を掻きながら苦笑いした。圭吾さんは混乱しているかのように何度も首を傾げ、理解できない、というように眉を顰めている。持っていたティーカップを置き、スマホを覗きこむ。まだ未読。

「というわけで、私と玲がどうこうっていうのはないです。この状況をどうするかを玲と相談したんですが、まだ連絡は返ってこなくて……」

「契約解消だったら、舞香さんはまた元の生活に戻るんですか」

「そりゃ、実際戻るしかないんですよね。お金はコツコツ働いて返そうと思ってます。勇太の大学もあるから、本当に少しずつになると思うけど……そんなことより、玲は今後どうするのか」
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