日給10万の結婚
夜になっても、玲からは返事が来なかった。
私と圭吾さんは食卓を囲み、美味しい夕飯を食べた。彼は料理も出来るんだと感心させられた。人の世話を見ることにとことん長けている。
美味しくバランスのいい料理を食べ、私は気を紛らわせるために明るい話題を振った。圭吾さんも私の気持ちに気が付いているのか、玲の事を避けて楽しい話ばかりしてくれた。二人の食事がとても楽しい時間だった。
片付けも終え、コーヒーを飲み終えるとすっかり外は暗くなっていた。未だ、玲からの連絡がない。圭吾さんがブラックコーヒーを飲みながら言った。
「暗くなってきましたね」
「はい……圭吾さんのご飯、美味しかったです。料理も出来るなんて、ほんと完璧ですね!」
「簡単な物だけですよ。前食べた舞香さんの料理の方がずっと美味しかったです」
「そんな! 圭吾さんは優しいし包容力もあるし凄いですよ」
「昔から母親みたいって言われました。父親じゃなくて母親かよって、自分はイヤでしたけど」
「あはは!」
笑ってはみたものの、そう言えば前『圭吾さんがお母さんならよかった』とかあほなことを言ってしまった経験があったなと思い出す。決して馬鹿にしてるんじゃなくて、それぐらい頼りがいがあるってことなんだけど、確かに男性に対してお母さんはないだろう。私も気を付けよう。
私は手元のコーヒーを飲み干すと、静かに頭を下げた。
「気を遣ってくれてたんですよね。私が落ち込んでパニックになってたから……十分落ち着きました。もう一人で大丈夫です」
私がそう言うと、彼も静かにカップを置いた。
「いえ。単にここにいたかったからいただけです」
「心細くならずにすみました」
「舞香さんの許可が下りるなら、僕はもう少しここにいたいです」
真っすぐな目でそう言われ、一瞬口ごもった。親切心でそう言われたと分かっていたのに、ここにいたい、というセリフが言われ慣れてなくて、戸惑ってしまったのだ。
圭吾さんがいてくれたら確かに心強い。
でも……
私は背筋を伸ばして彼に言った。
「私はまだ玲と結婚している身です。圭吾さんが相手でも、夜遅くまで男性を家に置いておくのは流石にできません。ありがとうございます」
そうきっぱり言った。