日給10万の結婚
「玲、そんな顔しないで」

「でも」

「確かに借金の肩代わりは嘘だったかもしれないけど、あの時玲が来てくれなかったら、私の人生は終わってた。間違いなく恩人なの。それに、両親に無理やり結婚させられそうになって焦ってた気持ちも分かる。玲はこの生活で、私にも何不自由ない生活をさせてくれてたし、勇太の事もちゃんと気にかけてくれてた。私は恨んでないよ」

 心の底からそう言った。あの時玲が取り立てのやつらを追い払ってくれなければ、私は人生のどん底にいた。彼が救ってくれたのは間違いない事実なのだ。

 そして、彼と過ごした時間の中で見た、玲という人間に惹かれたのも事実である。最初は性格悪い男だと嫌に思っていたが、私の失敗は強く励まし、尊重してくれた。小さな誕生会を心から喜んで、家族の大切さを知っていた。
 
 私は二階堂玲という人間性が好きなのだ。

「……舞香」

「口が悪くても、いつも自分が等身大でいられる玲の隣りにいるのが好きだよ。ちょっと性格残念なとこもあるけど、その分ちゃんとしてるところだってある。案外優しいってことも知ってる」

 私が笑って言うと、彼は突然こちらの体を抱きしめた。息が止まってしまうんじゃないかと思うほどの強い力だった。

 こらえきれず力の加減すら出来ていないであろう彼が、とても愛しく思えた。

「本当に……本当にごめん、舞香。騙して、嘘ついて、巻き込んだ。殴ってくれていい」

「殴ろうなんて思ってないよ。その代わり、今後は二度と嘘はつかないで」

「もうつかない。全部本当のことしか言わない。本当に最初は……ただ根性ある女を探してただけなんだ。実は舞香の前にも色々候補をあげて近づいても、悉く失敗してた。舞香のことはふと思い出しただけで、特別な感情なんてなかったんだ。でも、小学生の頃の舞香を思い出すなんて、今思うとずいぶん特別だったんだ。本当に舞香という人間に魅入られてる。俺は結婚相手はお前じゃなきゃ絶対にいやだ」
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