日給10万の結婚
青信号になり車が動き出す。彼はふうと一度息を吐いた。
「まあ俺にとっちゃタイミングがよかったんだけど。こんな展開でもなきゃお前はこの話受けなかったろ」
「それは、まあ。というか二階堂さんは」
「玲」
「え?」
「結婚するんだから、玲って呼べ」
そう言われて、なんだか急に恥ずかしくなった。そうか、形だけとは言え夫になるのか。
玲は話を続ける。
「悪いけど仕事も辞めるか休職な。看護師だっけ?」
「辞めるのは困る、離婚後も働きたいの!」
「任せろ、俺の方で手続きしといてやる」
ああ、仕事も急に働けなくなってしまった。いや、転職したと考えればいいのか。こんな展開になるなんて、思ってもみなかった。
しばらくそのまま車を走らせると、一気に高級住宅街へと変貌した。私がいたボロアパートみたいなものは一切ない。バカでかい家ばかり。窓から間抜けな顔をして眺めてしまう。
そして高層マンションにたどり着いた。駐車場に入り車を停めると、玲が降りる。またしても助手席を開けてくれたので、今回は涼しい顔をして降りてやった。
が、彼は私が持つ荷物を無言で奪って持ち始めたので、慌てて言った。
「それくらい自分で」
「これくらいで慌てるな。頼れるもんは頼っておけばいい。それに考えてもみろ、俺が女にでかい荷物を持たせたままだと思われるだろ」
またムッとした。そんな言い方しなくてもいいじゃないか、つまりは体裁を気にして荷物を持ってくれる、というわけだ。さっきからちょくちょく棘のあることを言ってくるんだから、やっぱりこの人、性格悪い。ぱっと見爽やかなイケメンなのに、腹の中は真っ黒だ。
こんな人と結婚するなんて、今更だけど大丈夫なんだろうか。
そんな不安がよぎったけれどすぐに考え直す。大丈夫じゃないんだよ、でもやるしかないんだ。私の一年は三千万で買われたんだからね。
貧乏人は歩くのさえたじろいでしまいそうな美しい廊下やエレベーターに乗り、最上階へ向かった。開いた口がふさがらない、よりにもよって最上階って。信じられないほどの金持ち。世界が違うってこういうことを言うんだろうなあ。
ぽかんとしてしている私の顎を、玲は不愉快そうに閉じさせた。舌を噛んでしまいそうになる。
「間抜けな顔すんな」
「危ない! 舌を噛むとこだった!」
「俺の妻だって意識しろ。どこで誰が見てるかわかんねーんだぞ。写真撮られたりするなら、お前も綺麗にうつりたいだろ」
「うそ、写真撮られたりするの?」
「ないとも限らないだろうが。俺を誰だと思ってんだよ」
二階堂玲さまですか、はあ。私は心の中でため息をつく。と同時にエレベーターが到着した。
恐る恐る足を踏み出して出る。思い出したように玲が言った。
「そういえば、暮らすのは基本俺とお前二人だけど、今家には一人仲間が待ってる」
「仲間?」
「今回の事情を知ってる人間だから、何か分からないことは全部そいつに聞け。間違ってもほかの人間には聞くな」
ピカピカに磨かれた重そうなドアを開けながら言ったと同時に、中からなんだか上品ないい匂いがしてきた。金持ちの匂いかな。
「玲さん!」
中から声がする。そしてバタバタと足音がしたかと思うと、一人の若い男性が出てきた。彼は私を見つけた途端、ぎょっとした顔をする。私はとりあえず頭を下げた。
「まあ俺にとっちゃタイミングがよかったんだけど。こんな展開でもなきゃお前はこの話受けなかったろ」
「それは、まあ。というか二階堂さんは」
「玲」
「え?」
「結婚するんだから、玲って呼べ」
そう言われて、なんだか急に恥ずかしくなった。そうか、形だけとは言え夫になるのか。
玲は話を続ける。
「悪いけど仕事も辞めるか休職な。看護師だっけ?」
「辞めるのは困る、離婚後も働きたいの!」
「任せろ、俺の方で手続きしといてやる」
ああ、仕事も急に働けなくなってしまった。いや、転職したと考えればいいのか。こんな展開になるなんて、思ってもみなかった。
しばらくそのまま車を走らせると、一気に高級住宅街へと変貌した。私がいたボロアパートみたいなものは一切ない。バカでかい家ばかり。窓から間抜けな顔をして眺めてしまう。
そして高層マンションにたどり着いた。駐車場に入り車を停めると、玲が降りる。またしても助手席を開けてくれたので、今回は涼しい顔をして降りてやった。
が、彼は私が持つ荷物を無言で奪って持ち始めたので、慌てて言った。
「それくらい自分で」
「これくらいで慌てるな。頼れるもんは頼っておけばいい。それに考えてもみろ、俺が女にでかい荷物を持たせたままだと思われるだろ」
またムッとした。そんな言い方しなくてもいいじゃないか、つまりは体裁を気にして荷物を持ってくれる、というわけだ。さっきからちょくちょく棘のあることを言ってくるんだから、やっぱりこの人、性格悪い。ぱっと見爽やかなイケメンなのに、腹の中は真っ黒だ。
こんな人と結婚するなんて、今更だけど大丈夫なんだろうか。
そんな不安がよぎったけれどすぐに考え直す。大丈夫じゃないんだよ、でもやるしかないんだ。私の一年は三千万で買われたんだからね。
貧乏人は歩くのさえたじろいでしまいそうな美しい廊下やエレベーターに乗り、最上階へ向かった。開いた口がふさがらない、よりにもよって最上階って。信じられないほどの金持ち。世界が違うってこういうことを言うんだろうなあ。
ぽかんとしてしている私の顎を、玲は不愉快そうに閉じさせた。舌を噛んでしまいそうになる。
「間抜けな顔すんな」
「危ない! 舌を噛むとこだった!」
「俺の妻だって意識しろ。どこで誰が見てるかわかんねーんだぞ。写真撮られたりするなら、お前も綺麗にうつりたいだろ」
「うそ、写真撮られたりするの?」
「ないとも限らないだろうが。俺を誰だと思ってんだよ」
二階堂玲さまですか、はあ。私は心の中でため息をつく。と同時にエレベーターが到着した。
恐る恐る足を踏み出して出る。思い出したように玲が言った。
「そういえば、暮らすのは基本俺とお前二人だけど、今家には一人仲間が待ってる」
「仲間?」
「今回の事情を知ってる人間だから、何か分からないことは全部そいつに聞け。間違ってもほかの人間には聞くな」
ピカピカに磨かれた重そうなドアを開けながら言ったと同時に、中からなんだか上品ないい匂いがしてきた。金持ちの匂いかな。
「玲さん!」
中から声がする。そしてバタバタと足音がしたかと思うと、一人の若い男性が出てきた。彼は私を見つけた途端、ぎょっとした顔をする。私はとりあえず頭を下げた。