日給10万の結婚
「俺は別に二階堂を継ぎたいと思ったことはない。ただ、あなたたちがそれを望んだからだ。子供の頃、授業参観にも体育祭にも来てもらえず、誕生日すら一緒に祝ってもらえなかった親を、俺は見捨てることが出来なかった。結局は最後まで、親であるあなたたちに認められたかっただけだ。いつかは俺という人間を認めてもらえるんじゃないかと信じてた。でもふたを開けてみればこれだ、一生を共にする結婚相手にあんな女を選んできて、俺の意見なんて聞かない。俺を信じずぶりっ子した他人を信じてる。もう諦めた」

 二人は黙ったままだ。玲の怒りと本音を目の前にして、わけがわからないとばかりに黙り込んでいる。

「俺が本当に欲しかったのは家族です。それが、舞香となら手に入る。俺は今から、自分が本当に求めた家族を作ります。あなた方に期待するのは終わりだ。どうしてもっと早くこうしなかったんだろう」

「……ずっとそんなふうに思っていたの?」

「ええずっとですよ。別に俺にこだわらなくても、どっか優秀な人間を引き入れて跡を継がせてください。俺は舞香と知らない土地に行って一からやり直します。二階堂の後継ぎでもなきゃ、俺たちの入籍のきっかけがどうであろうと舞香に借金があろうと、気にする人間なんていないんですよ」

 玲は吐き捨てて立ち上がった。私もそれに続き立ち上がる。お義父さまが慌てたように口を開いた。

「玲! 待て、お母さんは別にお前が憎かったわけじゃない。楓さんだって、優しくて明るい女性という人柄をちゃんと見てたんだ」

 ちょっとだけ笑ってしまいそうになった。玲も呆れたように言い返す。

「憎くはなくても関心もなかったですよね。あと、あの尻軽で性悪女の人柄を見た、という下手な冗談はやめてください、爆笑ものです」

「尻軽? 性悪?」

 お義母さまが狼狽える。玲はなおも呆れた。

「婚約させられる前に、俺は散々あの女について説明したはずですけど。それを一切信じず大丈夫だ、お前の見る目がおかしいと言ったのはそっちでしたよね。まあ、金城家というステータスで盲目になってたんでしょうが。舞香の事を調べ上げたり、男に無理やり襲わせたりと、あなた方は今後も何をしてくるか分からない。舞香や弟を危険な目にあわせたくないので、もう縁を切るんです」

「襲わせた……?」

 二人が一瞬混乱したような顔になったのを、私は見逃さなかった。演技ではなく、本当に何も知らないような顔だ。玲も気付いたようだが、特に追求しなかった。
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