日給10万の結婚



「ねえ玲、また未開封の箱出てきたよ!」

「なんだそれ。記憶にもねえ。あけてみて」

「ん~……うわ! 高そうなグラス出てきた!」

「いらね。売る」

「まあ、ワイングラスなんて使わないよねえ」

 クローゼットでやんややんやと荷物の整理をしていた昼下がり。

 勇太の家の近くに、よさげなアパートを見つけたので、そこに引っ越しの話を進めていた。明らかに荷物が入るわけがないので、引っ越し前に減らしているというわけだ。

 出るわ出るわ宝の山。玲曰く、誕生日にもなると、いろんな人がプレゼントを贈ってくれるらしい。開封しないまま部屋の奥底に入り込んでいる物が多くあるのだとか。金持ちの感覚は未だに分からない。

 玲がご両親と絶縁宣言して、一週間が経っていた。とにかくあっという間の一週間だった。

 まだ勇太にも事の真相を話せていない。やることが多すぎて、手が回っていない状態なのだ。

 私はあくびをしながら箱に蓋をする。少し離れたところで、玲が笑った。彼はいらないスーツの山を分別している。

「でかいあくび」

「だって眠い……」

「昨日も遅かったからな」

「玲のせいじゃん」

「俺だけのせいか?」

「連日玲のせいで寝不足」

「喜んでるくせに」

「黙れセクハラ」

 ぶつぶつ言い合いをしながら手を動かしていると、部屋にインターホンが鳴り響いた。私たちは顔を見合わせる。

 訪問者なんて、誰だろう。しかもこの音は、エントランス前の音じゃない。部屋の前で鳴らされる音だ。

 とすれば……

「私出てくる!」

 立ち上がって玄関へ向かっていく。扉を開けてみると、やはり、圭吾さんがそこに立っていた。私はわっと声をあげる。

「圭吾さん!」

「舞香さん、こんにちは」

「そうかなって思ってました! 中へどうぞ、色々散らかってますけどね。引っ越し前の分別をしてて」

「なるほど」

 圭吾さんが中に入ってくる。彼の顔を見るのも、一週間ぶりとなった。

 玲が二階堂を辞めるとなり、圭吾さんにもそれを伝えた。彼は玲の意見を尊重してくれ、応援してくれた。もちろん圭吾さんは二階堂に残ったまま、毎日せわしく働いているらしい。
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