日給10万の結婚
 彼が家を尋ねてくるのも、あれ以来。玲の付き人でなくなったので、当然と言えば当然のことだ。

 二人でリビングに入る。玲もやってきて、圭吾さんを見て顔を綻ばせた。なんだかんだ、大事な友達と思っているのだろう。

「圭吾!」

「玲さんお久しぶりです」

「今引っ越しの準備しててな」

「ええ、舞香さんから聞きました」

 圭吾さんの優しい声を聞くと、やっぱり安心するなあ。これこれ、やっぱりたまには圭吾さんがいなくちゃ。

 彼は私たちに微笑んで言った。

「お二人の決断、改めて凄いと思っています」

「いやあ、そんな」

「でもそんな玲さんと舞香さんがこれを見たら、なんて言うかな」

 そう言った彼は、持っていた鞄から何かを取り出した。白い封筒のようだ。

 私と玲は顔を見合わせる。玲がそれを受け取り、じっと眺めた後、中から取り出した。手紙のようで、数枚便箋が重なっている。私もそれを覗きこんでみると、達筆な文字がびっしり詰まっていた。玲が私にも見やすいように目線を合わせてくれる。

 まず誰からだろう? 玲に直筆の手紙を送るなんて。私たちは無言でその文字を目で追った。


「……ええ!?」


 大きな声を出したのは私だった。信じられない内容だったからだ。

 玲はぽかんとした顔で、手紙を握りしめている。

「どうか戻ってきてほしい、って……これ、本当にマミーとパピーからなの!?」

 驚きのあまり、声がひっくり返ってしまった。

 手紙の内容は、自分たちがどれほど愚かで間違っていたか、という懺悔と、玲がいなくなってから大変だというアピール、そしてどうか二階堂に戻ってきてくれないか、という提案だった。

 私との結婚も認める、と書いた上で。
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