日給10万の結婚
 と目に涙を浮かべてうるうるしてるも、男たちと楽しそうにホテルに入っていく写真は、言い逃れ出来ないものだ。

『この写真はどう説明なさるの……』

『私によく似た人です』

『しらじらしい! ドッペルゲンガーとでもいうつもりですか! 玲はこんな尻軽との結婚が嫌だったんですね……これじゃあ、妊娠してもどこの男の子供か分からないじゃない! おかげで玲は二階堂を出て行ってしまったんですよ!』

 玲が二階堂からいなくなったということは、まだ楓さんの耳には届いていないようだった。ぎょっとして、すごい形相で叫んだ。

『玲さんが出て行った? どういうことですか、じゃあ私との結婚はどうなるんですか!?』

『出来るわけないでしょうがああ! 会社も辞めたんですよ! それにこれを見る限り、あなた……舞香さんの元交際相手に無理やり襲わせたそうじゃない! 私はそんなことまでしろと言ってませんよ!』

『襲わせたなんて人聞きが悪いです! ちょっとキスさせて証拠を撮っただけです!』

『ちょっとキス、って! キスでも暴行罪になることがあるんですよ、それを仕向けたのが誰か世にばれたら、私にも迷惑が掛かると考えてわからなかったのこの女!』

『私は無我夢中で頑張っただけです!』

『あなたと結婚すれば金城家とも強く結ばれると思っていたけれど、どんな育て方をしたのあの二人は!』

『黙って聞いてればうるさいなくそババア! 玲さんと結婚するために媚売ってきたのに、息子一人説得させられなくて何が母親だあ!』

 ついに二人はつかみ合いの喧嘩を始めてしまった。

 それはそれは激しい喧嘩で、しばらく黙って観察していた圭吾さんが数分後止めに入るまで、叩くは髪を引っ張るわの大騒動。

『僕……女性のあんな凄いシーン見たの、初めてでした……ちびるかと思った』

 圭吾さんはそう言った。




「というわけで、二人は大変な仲間割れをしたんです」

 私と玲は言葉を失った。恐ろしい、あんなに仲良さそうにくっついていた二人が、つかみ合いの喧嘩だなんて。そりゃどこかのホラー映画よりよっぽど怖い。

 だが、玲は少しして小さく笑っていた。あまり笑い事じゃないと思うのだが、まあ彼の気持ちも分かるので、咎めることはしなかった。
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