日給10万の結婚
それからのこと
「へえー結局、まじの夫婦になったってわけ」
勇太がさほど驚いてなさそうな声で言った。
広くはないが、十分片付いている彼のアパートに、私と玲でやってきていた。机の上には、様々な科目のテキストが積み上がっていた。小さなテーブルを囲み、勇太が出してくれたお茶を三人で飲む。
マミーたちに呼び戻され、あれから二週間。怒涛の時間を過ごし、ようやく勇太に報告しにやってきたのだ。
玲は混乱していた仕事を落ち着かせるために走り回り、私は本格的に二階堂の妻になったとのことで、今更ながらマミーたちと腹を割って話をした。
パピーは戻ってきてくれてありがとう、という感じだ。一方、マミーも口では同じような事を言っていたが、まだこちらにわずかな敵意を持っていた。まあ、プライドが許さないんだろう。
それを玲とパピーにめちゃくちゃ絞められた。特にパピーは、今までとは人が変わったように叱りつけ、マミーも小さくなるしかなかった。ここで立場が変わってしまったのである。
今まで、旦那も息子も思い通りにしていたのに、そうはいかなくなったのだ。
パピーは心を入れ替え……たとは言えない。あくまで二階堂第一の人だが、もう私に敵意を向けることはなくなったし、玲の意見も聞くようになったようだ。まあ、大きな一歩と言えるだろう。
だが玲は、親と接するというより、一線を引いて仕事相手と接するような態度にとどまっている。今更親子として過ごすつもりはない、というのは本当らしい。彼のそんな態度を見て、ご両親とも戸惑っているようだ。必死にゴマを擦ってくるが、玲は『とにかくあまり関わらないでほしい』ときっぱり言い放ったので、二人は項垂れていた。(念書も本当に書かせていた)
だが、結婚式は盛大に開くべきだと力説され、目の前がチカチカした。仕事関係の人たちなど、呼びたい人がいっぱいいるんだって。知らんがな。
まあ断る理由もないし、結婚式はする予定で話は進んでいる。結婚式より、マミーが居心地悪そうに部屋の端っこにいることの方が、私にとっては楽しいことなのだ。(性格悪いヒロインでごめんね)
まあそれは置いておいて、私は倫子さんや伊集院さんにお礼にも行った。二人はそれぞれとても喜んでくれた。
倫子さんは言わずもがなもう友達の一人だし、娘の命の恩人を邪険に扱われるのは許せない、という感覚みたいだった。
伊集院さんも、華道を通じて私の人間性がとても好きだと言ってくれたと同時に、根拠はないものの楓さんにはあまりいい印象がなかったらしく、こちらの味方をしてくれたということだった。見る目あるなあ、マミーは最後まで気づかなかったのに。
華道教室は再開。最近は倫子さんも入会し、週に一度通うことになっている。
もう一つのレッスン、畑山さんも再開した。彼女には事の真相を全て話し、驚かれたが、怒ることはしなかった。
むしろ、目に涙をためて、『二人が幸せになれたのなら本当に良かった』とか言ってくれて、私はこの人をお義母さまと呼ぼうかなと心から思った。