日給10万の結婚
「掛けてくださいね」
言われた通り、大きなソファに腰かけてみる。ぶおんっと腰が沈んで驚いた。なんじゃこれは、間違えたら窒息死するかも。
呆然としている私の目の前に、湯気の立つ紅茶が静かに置かれた。見上げると、圭吾さんが微笑んでいる。
「まずはゆっくり落ち着かれては」
「あ、ありがとうございます」
ふっと力が抜けて安心した。この人は本当に優しい人なんだなあ、と分かったからだ。紅茶を持口に近づけると、ふわっと凄くいい香りが鼻をくすぐった。ああ、リラックスできる。
ゆっくり時間を掛けて半分ほど飲んだ。その間、圭吾さんはいなくなり一人にしてくれた。温かな紅茶が全身に満ち、なんだかようやく現実を受け入れてきた気がする。怒涛の展開に、多分心はついてきていなかった。
ふうと息を吐き、ふつふつと湧き上がる怒りや不安と戦う。
あのクソおやじ、もし次会ったらただじゃおかない。勇太にまで被害が及ばなくてよかった。
そして今更だけど、私これからどうなるんだろうか。玲は何だか癖のある人そうだし、そんな人と一つ屋根の下、結婚かあ。
「大丈夫ですか」
気が付くと圭吾さんがそばに立っていた。私は紅茶を置いて頭を下げる。
「ありがとうござます、大分落ち着きました」
「よかった。表情もぐっと穏やかになりました。まさか本当に結婚相手を連れてくるなんて思わなかったんです、僕の心臓は一度止まりました」
呆れたように言う圭吾さんに、私は早速本題にとりかかった。
「ざっくり話は聞いています。婚約者との結婚がどうしてもいやで、私に仮の妻になってほしい、とのことでした。私が完璧な妻になれれば、一年後離婚してもいいそうです」
「僕も同じように聞いています。まあ確かに、結婚を嫌がるのも気持ちはわかるんですが……」
そう言って圭吾さんは言葉を詰まらせた。そうか、この人も相手の婚約者知ってるんだ。こんな優しそうな人にまでそう言われるだなんて、相手はどんな人なんだろう……?
私のそばに近づき、圭吾さんがしゃがみ込んだ。目線が近くなり、なんだか緊張してしまう。所作とかが綺麗なんだなあ、今まで周りにいなかったタイプ。
「正直に申しますと、かなり辛い一年になるかと思います。それにあっちが嫌だからという理由で、ほとんど会ってなかった人と結婚するなんて、横暴すぎて何も弁護できません」
「あはは、圭吾さんはまともな人なんですねえ」
「玲さんは昔からちょっとズレてますからね、根はいい人なんですけどやり方が強引だし」
(根はいい人? ほんとか?)
「今回ばかりは止めたんですけど、聞かなくて。ただ僕としても、こんな無茶苦茶な話に乗ってこないだろうと高をくくってたのもあって」
「あはは……そしたらタイミング悪く借金に困ってた私が予想外に来てしまった、と。いや、タイミングは私からするとよかったんですけど」
「本当にいいんですか」
真っすぐな瞳で聞かれた。私は背筋を伸ばし、ニコリと口角を上げて見せた。
「凄い話ですけど、うちの借金の肩代わりをしてもらったのは事実です。風俗に沈められるよりずっといいと思っています。
根性だけはあると思うので、この一年死に物狂いで頑張ります。そして一年後、無事離婚して弟とまた暮らしたいです!」
きっぱり言い切ると、一瞬圭吾さんは驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。そして意を決したように立ちあがる。
言われた通り、大きなソファに腰かけてみる。ぶおんっと腰が沈んで驚いた。なんじゃこれは、間違えたら窒息死するかも。
呆然としている私の目の前に、湯気の立つ紅茶が静かに置かれた。見上げると、圭吾さんが微笑んでいる。
「まずはゆっくり落ち着かれては」
「あ、ありがとうございます」
ふっと力が抜けて安心した。この人は本当に優しい人なんだなあ、と分かったからだ。紅茶を持口に近づけると、ふわっと凄くいい香りが鼻をくすぐった。ああ、リラックスできる。
ゆっくり時間を掛けて半分ほど飲んだ。その間、圭吾さんはいなくなり一人にしてくれた。温かな紅茶が全身に満ち、なんだかようやく現実を受け入れてきた気がする。怒涛の展開に、多分心はついてきていなかった。
ふうと息を吐き、ふつふつと湧き上がる怒りや不安と戦う。
あのクソおやじ、もし次会ったらただじゃおかない。勇太にまで被害が及ばなくてよかった。
そして今更だけど、私これからどうなるんだろうか。玲は何だか癖のある人そうだし、そんな人と一つ屋根の下、結婚かあ。
「大丈夫ですか」
気が付くと圭吾さんがそばに立っていた。私は紅茶を置いて頭を下げる。
「ありがとうござます、大分落ち着きました」
「よかった。表情もぐっと穏やかになりました。まさか本当に結婚相手を連れてくるなんて思わなかったんです、僕の心臓は一度止まりました」
呆れたように言う圭吾さんに、私は早速本題にとりかかった。
「ざっくり話は聞いています。婚約者との結婚がどうしてもいやで、私に仮の妻になってほしい、とのことでした。私が完璧な妻になれれば、一年後離婚してもいいそうです」
「僕も同じように聞いています。まあ確かに、結婚を嫌がるのも気持ちはわかるんですが……」
そう言って圭吾さんは言葉を詰まらせた。そうか、この人も相手の婚約者知ってるんだ。こんな優しそうな人にまでそう言われるだなんて、相手はどんな人なんだろう……?
私のそばに近づき、圭吾さんがしゃがみ込んだ。目線が近くなり、なんだか緊張してしまう。所作とかが綺麗なんだなあ、今まで周りにいなかったタイプ。
「正直に申しますと、かなり辛い一年になるかと思います。それにあっちが嫌だからという理由で、ほとんど会ってなかった人と結婚するなんて、横暴すぎて何も弁護できません」
「あはは、圭吾さんはまともな人なんですねえ」
「玲さんは昔からちょっとズレてますからね、根はいい人なんですけどやり方が強引だし」
(根はいい人? ほんとか?)
「今回ばかりは止めたんですけど、聞かなくて。ただ僕としても、こんな無茶苦茶な話に乗ってこないだろうと高をくくってたのもあって」
「あはは……そしたらタイミング悪く借金に困ってた私が予想外に来てしまった、と。いや、タイミングは私からするとよかったんですけど」
「本当にいいんですか」
真っすぐな瞳で聞かれた。私は背筋を伸ばし、ニコリと口角を上げて見せた。
「凄い話ですけど、うちの借金の肩代わりをしてもらったのは事実です。風俗に沈められるよりずっといいと思っています。
根性だけはあると思うので、この一年死に物狂いで頑張ります。そして一年後、無事離婚して弟とまた暮らしたいです!」
きっぱり言い切ると、一瞬圭吾さんは驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。そして意を決したように立ちあがる。