日給10万の結婚
クローゼットだけで私が住んでいたアパートの部屋が収まるぐらいの広さがあった。私の部屋ここでいいんじゃないか? とすら思う。
その場にそぐわない安物の服をこっそり隅の方に掛けておく。ほかは高そうなスーツが多かった。仕事着なんだろう、今日彼が身に着けていたものも大分高級そうだった。
しばらくして圭吾さんがお風呂にの準備をしてくれ、まずはゆっくりするよう促された。お言葉に甘え、テレビでしか見たことないような広すぎるお風呂に入り、もはや現実とは思えない環境にのぼせそうになった。シャンプーだってめちゃくちゃ高そう、絶対薬局なんかに売ってないやつだ。
ふらふらになりながら出ると冷たい飲み物を用意してくれた圭吾さんが待っていてくれた。その気遣いと優しさが染み入る。どうせならこういう人と結婚したかった。
そうこうしているうちにようやく玲が帰宅した。入れ替わりで圭吾さんが帰宅する。外はもう真っ暗になっていた時間なので、彼が帰宅するのも当然だろう、仕事として私の世話を焼いてくれたのだ。
だが彼は帰るとき、玲に『舞香さんを困らせないようにちゃんとしてください』ときっぱり言ってくれた。神か、と思った。
玲はめんどくさそうに返事しただけで、そのあとすぐに自分もお風呂に入ってしまったのだ。圭吾さんもいなくなり、私は広すぎるリビングに一人ぽつん。
何をしていいのかもわからないし、困り果てる。だが持ってきたスマホの存在を思い出し見てみると、勇太から心配のメッセージが何通も入っていた。とりあえずそれに丁寧に返事を返す。
今のところ、素晴らしいぐらいもてなされているだけだ。いいお茶を飲み、いい風呂に入り寛いでるだけ。自分でも戸惑ってばかりだ。
少しして玲が上がってくる。そして彼を見てびっくりした。バスローブを着ていたからだ。あんなの、洋画の中ぐらいしかないのかと思ってた、日本人って使うの?
唖然として見ていると、玲と目が合った。彼は濡れた髪を拭きながら、ゆっくりと眉が顰めた。しまった、見すぎただろうか。
「何お前のその服」
「え? あ、お風呂先に頂いたのでパジャマ着ちゃった……まだ出かけたりするんだった?」
「いやダルダルで裾穴開いてんじゃん」
「でもまだ着られるから」
「はあ……まああの家見たら想像つくけど、それほどとはね」
呆れたようにため息をつく玲にムッとする。こいつ貧乏馬鹿にしすぎだ。
ちょいちょい感じていたけれど、この男はかなりプライドも高いし腹黒いと見た。性格の悪さが隠しきれてないんだよ。
私は睨みつけて言った。
「金持ち自慢したいのは結構ですけど、大概人間が金を持ってるか持ってないかは、一部を除いて自分の努力じゃなくて親の力なの。あんたが二階堂の会社を一から作ったっていうなら素直に感動するけど、そうじゃないなら金持ち自慢もかっこ悪いからやめた方がいいよ」
淡々とそう言うと、玲は少しだけ目を見開いた。そこでしまった、と後悔する。これから一つ屋根の下で暮らしていかねばならない人間に、正論をストレートに言いすぎただろうか。
ひやひやして見守る。だが、玲は少しだけ吹き出すと、小さな声で笑った。髪を拭きながら言う。意外な反応にあれっと不思議に思う。
「ほんと昔から変わってないな」
「え?」
「俺子供の頃も同じこと言われた」
「うそ、覚えてない」
「まあ正論だな。だが、残念ながら親の力だろうが自分の力だろうが、力を持ってることには変わりない。そういう相手には正論なんて紙くずみたいなもんだ、俺以外に突っかかると痛い目見るぞ、覚えておけ」
「玲にはいいの?」
「夫婦だからな」
そう言った玲は冷蔵庫まで歩いて行ってしまった。私は何も言い返さずぐっと押し黙る。気まずくなり黙っていると、目の前に缶ビールが置かれた。見上げると、玲も手に一つ持っている。
その場にそぐわない安物の服をこっそり隅の方に掛けておく。ほかは高そうなスーツが多かった。仕事着なんだろう、今日彼が身に着けていたものも大分高級そうだった。
しばらくして圭吾さんがお風呂にの準備をしてくれ、まずはゆっくりするよう促された。お言葉に甘え、テレビでしか見たことないような広すぎるお風呂に入り、もはや現実とは思えない環境にのぼせそうになった。シャンプーだってめちゃくちゃ高そう、絶対薬局なんかに売ってないやつだ。
ふらふらになりながら出ると冷たい飲み物を用意してくれた圭吾さんが待っていてくれた。その気遣いと優しさが染み入る。どうせならこういう人と結婚したかった。
そうこうしているうちにようやく玲が帰宅した。入れ替わりで圭吾さんが帰宅する。外はもう真っ暗になっていた時間なので、彼が帰宅するのも当然だろう、仕事として私の世話を焼いてくれたのだ。
だが彼は帰るとき、玲に『舞香さんを困らせないようにちゃんとしてください』ときっぱり言ってくれた。神か、と思った。
玲はめんどくさそうに返事しただけで、そのあとすぐに自分もお風呂に入ってしまったのだ。圭吾さんもいなくなり、私は広すぎるリビングに一人ぽつん。
何をしていいのかもわからないし、困り果てる。だが持ってきたスマホの存在を思い出し見てみると、勇太から心配のメッセージが何通も入っていた。とりあえずそれに丁寧に返事を返す。
今のところ、素晴らしいぐらいもてなされているだけだ。いいお茶を飲み、いい風呂に入り寛いでるだけ。自分でも戸惑ってばかりだ。
少しして玲が上がってくる。そして彼を見てびっくりした。バスローブを着ていたからだ。あんなの、洋画の中ぐらいしかないのかと思ってた、日本人って使うの?
唖然として見ていると、玲と目が合った。彼は濡れた髪を拭きながら、ゆっくりと眉が顰めた。しまった、見すぎただろうか。
「何お前のその服」
「え? あ、お風呂先に頂いたのでパジャマ着ちゃった……まだ出かけたりするんだった?」
「いやダルダルで裾穴開いてんじゃん」
「でもまだ着られるから」
「はあ……まああの家見たら想像つくけど、それほどとはね」
呆れたようにため息をつく玲にムッとする。こいつ貧乏馬鹿にしすぎだ。
ちょいちょい感じていたけれど、この男はかなりプライドも高いし腹黒いと見た。性格の悪さが隠しきれてないんだよ。
私は睨みつけて言った。
「金持ち自慢したいのは結構ですけど、大概人間が金を持ってるか持ってないかは、一部を除いて自分の努力じゃなくて親の力なの。あんたが二階堂の会社を一から作ったっていうなら素直に感動するけど、そうじゃないなら金持ち自慢もかっこ悪いからやめた方がいいよ」
淡々とそう言うと、玲は少しだけ目を見開いた。そこでしまった、と後悔する。これから一つ屋根の下で暮らしていかねばならない人間に、正論をストレートに言いすぎただろうか。
ひやひやして見守る。だが、玲は少しだけ吹き出すと、小さな声で笑った。髪を拭きながら言う。意外な反応にあれっと不思議に思う。
「ほんと昔から変わってないな」
「え?」
「俺子供の頃も同じこと言われた」
「うそ、覚えてない」
「まあ正論だな。だが、残念ながら親の力だろうが自分の力だろうが、力を持ってることには変わりない。そういう相手には正論なんて紙くずみたいなもんだ、俺以外に突っかかると痛い目見るぞ、覚えておけ」
「玲にはいいの?」
「夫婦だからな」
そう言った玲は冷蔵庫まで歩いて行ってしまった。私は何も言い返さずぐっと押し黙る。気まずくなり黙っていると、目の前に缶ビールが置かれた。見上げると、玲も手に一つ持っている。