日給10万の結婚
「何突っ立ってる?」
広々としたベッドに座った玲がこちらを見て言った。あのサイズって何だろう、明らかに一人で寝るような広さではない。私と玲どころか、多分圭吾さんも眠れる、それぐらいの大きさだ。
紺色のシーツは清潔そうで、気持ちよさそうでもあった。私はその足元に立ち、どうしていいか分からず立ち尽くしていた。
程よく酔いも回ったところで早く寝よう、となったはいい。だがしかし、二人して向かったのは無論この寝室なのである。私は別に、今までだってペラペラの布団で寝ていたわけだから、毛布一枚お借りすれば床で寝るなんて苦じゃない。でも玲は当然のように私をベッドに招いている。
二階堂舞香となり、夫婦になった。一年限定(の予定)だけど、夫婦なのだ。もしかして、『そっち』も含まれていたんだろうか? だって男女が同じベッドで寝るというのに、まさか何もなしなんてありえないと思うのだが。
玲は怪訝な顔で私を見ている。こうしてても仕方がないと思い、私は正直に言った。
「あの、同じベッドで寝るの?」
「圭吾に部屋見せてもらったろ? 他に寝る場所はない」
「私、別に床とかソファで全然大丈夫だよ、適当に毛布とかブランケットとか貸してもらえれば。貧乏人は体が強いから、全然気にならないし」
「馬鹿かお前? いい睡眠はその人間の能力を引き出すのに最も重要な項目だぞ。美容にしろ勉強にしろ中途半端な睡眠で臨むな」
「い、いやでもさ……」
結婚に対しては納得してるし凄い仕事を受けたと思っていたが、この項目は想定外だ。それとも、風俗に沈められるのを止めてもらったんだから、それぐらい我慢しなきゃいけないんだろうか。
おろおろしてると何かを察したらしい。玲はああ、と何かを思いついたように言った。
「ごめん。申し訳ない」
「え?」
「期待してるところ悪い。俺はそういうつもり全然ないから」
あっけらかんとして言い放った彼に、つい言い返してしまう。
「き、期待してませんけどー!?」
「本当にごめん。俺貧乳は眼中にない」
とんでもなく失礼をことを言われて、怒りで髪の毛が逆立ったかと思った。なぜ一日で二度も私の胸についてディスられなければならないのだ? 聞き逃してないぞ、あのやくざたちも胸がないとかほざいていたんだ!