日給10万の結婚
 しかも玲は本当に申し訳なさそうにいったのがなお癪に障った。怒りと恥ずかしさが全身を走り廻る。期待なんかしてませんでしたし? 胸は大きさじゃない、形なんだよ!

「私だっていくら顔がよくて金持ちでも、性格悪い腹黒男なんてお断りですしー!?」

「言い方小学生なんだよ」

「あーあー安心しました、眠いので寝ましょうかね」

 不機嫌を隠すことなくそう言いながらベッドに足を突っ込んだ。乗ってみると未だかつて感じたことのない柔らかな感触に驚いた。今まで使ってた布団って一体何だったの。

「気にしてたのか、悪いな」

「気にしてませんけど!?」

「そんな気に病むな、俺は大きいの重視だけど、世の中には小さい方がいいなんていうなんとも不思議な男がいるみたいだから、離婚したらそれを探せ」

「殴ってもいい?」

 本当に握りこぶしを作ってそう凄んでみた。なぜか玲は小さく笑いだす。笑い事じゃない、この男性格何とかした方がいいぞ。こんなのと一年も夫婦としてやっていかなきゃいけないなんて、今更だが頭痛がしそうだ。

 玲は一人で笑った後、すぐに目を閉じて眠る体制に入っていく。その横にごろりと寝そべった時、私にだけ枕があることに気が付いた。見てみると、玲は自分の腕を枕代わりにしている。私の分の枕がないので譲ってくれたようだ。

 ……よく分からないなこの男。優しいところも、ある、のか?

 そう首を傾げながら、私はせっかくなので枕をお借りした。ふわふわで頭にフィットする、とても使い心地のいいものだった。全身を包むすべての物が一流で、これまで生きてきて感じた事のない感覚ばかり。逆に眠れそうになかった。

 布団をかぶり目を爛々に輝かせたまま天井を見つめる。隣からは玲の吐息が聞こえてきて、ああ、本当に女として見られてないんだなって痛感した。普通貧乳でも隣に女が寝てたらこう、燃え上がったりしないものだろうか? まあいい、私としてもその方がありがたい。今日会ったばかりの男に抱かれるなんて避けたいのが本音なのだから。

 それにしても、広い。

「……勇太、何してるかな」

 相手は子供じゃない、しっかり者の弟なんだからそんな心配不要だとは分かってる。でも今まで、ずっとあの狭いアパートで勇太と暮らし続けていたから、彼のいない夜が酷く不安になった。ブラコンなのかな、私。

 大丈夫、一年だ。必死に頑張って認めてもらって、一年で終わりにしよう。そしたらまた今までみたいな穏やかな毎日が訪れる。それを目指して、私は明日から完璧な女を目指すのだ。

 絶対に一年で、終わらせてみせる。



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