日給10万の結婚
『引っ越し終わったよ、ありがと。姉ちゃん頑張れ』
「引っ越し??」
日付を見れば二日前になっている。私は慌てて勇太に電話を掛けてみた。彼はすぐに出てくれる。
『もしもし? 姉ちゃん久しぶり!』
弾んだ声に可愛い奴だなこいつ、と言いたいのを堪え、私はすぐに本題に取り掛かる。
「勇太元気そうで何より! ね、引っ越しってどういうこと?」
『え? 姉ちゃんが言ってくれたんじゃないの、家の引っ越し』
「言うって誰に」
『二階堂さんが来て全部手配してくれたけど。学生一人暮らしにはあまりに防犯上とか心配だって言って……てっきり姉ちゃんが心配してやってくれたのかと』
初耳だ。勇太はあのボロアパートに住んでるのだとばかり思っていた。間違いなく、玲のしわざだろう。
『姉ちゃん? 大丈夫? 今何してんの?』
心配そうに聞いてくる声に、何とか笑顔を返した。
「私はよくしてもらってるよ! こう、立派な淑女になるべく色々レッスンしてるっていうか」
『姉ちゃんが淑女? 嘘だろ』
「どういう意味だ」
『あはは、ちょっと面白くて。元気ならいいんだ、一人で背負わせちゃってごめん』
やや声を小さくさせて言った彼に、慌てて否定した。
「勇太が謝ることじゃないでしょう! 案外楽しくやってるから安心して。勇太こそ体に気を付けて勉強頑張るんだよ」
そのあともいくつか言葉を交わし、とりあえず電話を切った。勇太が元気そうなことにほっとし、しかしすぐにリビングに向かった。中に入ってみると、玲が一人ビールを飲んでいるところだった。ソファに腰かけ、何やらテレビを眺めている。
そんな彼に近づき、私はすぐに尋ねた。
「勇太を引っ越しさせたってどういうこと!? 私に一言も相談なしに」
そう言うと、彼はこちらを見ることもなくああ、と小さく声を漏らした。思い出したように言う。
「お前はレッスンに集中するのが仕事だろ。弟のことは本人にもちゃんと希望は聞いたんだ、無理やりやったわけじゃない」
「なんで急に?」
「考えて分からないか? 今にも崩れ落ちそうなボロに一人暮らしは男とはいえ危険だろうが。それに、お前と結婚したということが公になれば、俺の親は必ずお前の周辺を調べるぞ。そんな時、あの家はさすがにないだろ」
前半は素直に嬉しかった、確かに勇太一人で暮らすのにあの家は心配もあるからだ。だが、後半はつまり周りからの目を気にして行動した、ということだ。やや複雑な気持ちになる。この男がいつも見た目やステータスを気にしていることは知っていたけれど、抜かりがないというかなんというか。
「言っておくが学生に相応しいレベルのマンションにしておいた。だが、セキュリティはそれなりにちゃんとしてある。これはお前の金じゃなく俺の金から出した、二階堂に関わることだからな。身の回りの世話をする人間を派遣しようかとしたが、それは弟に断られた。しっかりしてんなお前の弟」
「……まあ、結果として勇太がいい暮らし出来てるなら、まあいっか。ありがとう」
そんな答えに辿り着き、私はお礼を言った。勉強にも集中できるだろうし、文句はない。玲はテレビを眺めながら適当な返事を返した。
私はそんな彼を置いて、また寝室へ戻った。
「引っ越し??」
日付を見れば二日前になっている。私は慌てて勇太に電話を掛けてみた。彼はすぐに出てくれる。
『もしもし? 姉ちゃん久しぶり!』
弾んだ声に可愛い奴だなこいつ、と言いたいのを堪え、私はすぐに本題に取り掛かる。
「勇太元気そうで何より! ね、引っ越しってどういうこと?」
『え? 姉ちゃんが言ってくれたんじゃないの、家の引っ越し』
「言うって誰に」
『二階堂さんが来て全部手配してくれたけど。学生一人暮らしにはあまりに防犯上とか心配だって言って……てっきり姉ちゃんが心配してやってくれたのかと』
初耳だ。勇太はあのボロアパートに住んでるのだとばかり思っていた。間違いなく、玲のしわざだろう。
『姉ちゃん? 大丈夫? 今何してんの?』
心配そうに聞いてくる声に、何とか笑顔を返した。
「私はよくしてもらってるよ! こう、立派な淑女になるべく色々レッスンしてるっていうか」
『姉ちゃんが淑女? 嘘だろ』
「どういう意味だ」
『あはは、ちょっと面白くて。元気ならいいんだ、一人で背負わせちゃってごめん』
やや声を小さくさせて言った彼に、慌てて否定した。
「勇太が謝ることじゃないでしょう! 案外楽しくやってるから安心して。勇太こそ体に気を付けて勉強頑張るんだよ」
そのあともいくつか言葉を交わし、とりあえず電話を切った。勇太が元気そうなことにほっとし、しかしすぐにリビングに向かった。中に入ってみると、玲が一人ビールを飲んでいるところだった。ソファに腰かけ、何やらテレビを眺めている。
そんな彼に近づき、私はすぐに尋ねた。
「勇太を引っ越しさせたってどういうこと!? 私に一言も相談なしに」
そう言うと、彼はこちらを見ることもなくああ、と小さく声を漏らした。思い出したように言う。
「お前はレッスンに集中するのが仕事だろ。弟のことは本人にもちゃんと希望は聞いたんだ、無理やりやったわけじゃない」
「なんで急に?」
「考えて分からないか? 今にも崩れ落ちそうなボロに一人暮らしは男とはいえ危険だろうが。それに、お前と結婚したということが公になれば、俺の親は必ずお前の周辺を調べるぞ。そんな時、あの家はさすがにないだろ」
前半は素直に嬉しかった、確かに勇太一人で暮らすのにあの家は心配もあるからだ。だが、後半はつまり周りからの目を気にして行動した、ということだ。やや複雑な気持ちになる。この男がいつも見た目やステータスを気にしていることは知っていたけれど、抜かりがないというかなんというか。
「言っておくが学生に相応しいレベルのマンションにしておいた。だが、セキュリティはそれなりにちゃんとしてある。これはお前の金じゃなく俺の金から出した、二階堂に関わることだからな。身の回りの世話をする人間を派遣しようかとしたが、それは弟に断られた。しっかりしてんなお前の弟」
「……まあ、結果として勇太がいい暮らし出来てるなら、まあいっか。ありがとう」
そんな答えに辿り着き、私はお礼を言った。勉強にも集中できるだろうし、文句はない。玲はテレビを眺めながら適当な返事を返した。
私はそんな彼を置いて、また寝室へ戻った。