日給10万の結婚
デリカシーの欠片もない男を冷めた目で見つつ食事を続けるが、悔しいことにご飯はとても美味しかった。今までこんな美味しい物なんて食べたことがない。
上品な味付け、体験したことのない舌触り、うっとりする香り。全てが一流で、きっと今までの私だったら一生経験出来ないものだ。
勇太にも食べさせてあげたいな。勇太が就職したら、自分たちの力で行けたりしないなあ。
そんなことをぼんやり考えていると、ウェイターが近づいてくる。
「二階堂様」
玲に静かに何かを伝えている。彼はワインを飲みながらそれを聞くと、ふっと口角を上げた。その笑みは何やら不敵なものを感じ、見ていた私は何だかゾッとした。
玲が頷いて小さく返事を返した。ウェイターは去り、見えなくなる。私はすぐに玲に何かあったのかをたずねようとした。
そのときだった。
「玲さん、ご無沙汰しております」
突然男性の声が響いた。振り返ってみると、中年のスーツを着た男がニコニコ顔で立っている。彼は玲のそばまで歩み寄り、へこへこと頭を下げる。玲は立ち上がり、爽やかな笑顔で応えた。
「ご無沙汰しております、田辺さん。相変わらずここの味は一流ですね」
「玲さんにそう言って頂けたらこれ以上ない喜びです! またご両親や、楓さんもご一緒に」
そう言いかけた彼は、ようやく私の存在に気づきぴたりと停止した。私は心の中でだらだらと汗をかく。一体誰だこのおっさんは。私はどう挨拶をすればいいというのだ。
困った末、とりあえず立ち上がりニコリと笑って見せた。男性はそれを見て、へらっと笑い返してくれる。するとそれに割り込むかのように、玲が声を上げたのだ。
「紹介します、妻の舞香です」
そんなセリフを落とし、空気は分かりやすいほどに凍り付いた。目の前のおじさんは勿論、私もだ。だって、私との結婚はまだ隠してる、って言っていたじゃないか。
おじさんは私と玲の顔を何度も交互に見る。そして開けっ放しの口を何とか動かしながら、玲に尋ねた。
「ご結婚された……?」
「はい」
「まい、かさん? 楓さんではなく……?」
「ええ、妻の舞香です」
玲はつかつかと私の隣りに移動し、慣れた動作で腰に手を回した。頭の中はパニックに陥るが、ここまで来たら乗るしかない。私は余裕の笑みを浮かべて挨拶をした。
上品な味付け、体験したことのない舌触り、うっとりする香り。全てが一流で、きっと今までの私だったら一生経験出来ないものだ。
勇太にも食べさせてあげたいな。勇太が就職したら、自分たちの力で行けたりしないなあ。
そんなことをぼんやり考えていると、ウェイターが近づいてくる。
「二階堂様」
玲に静かに何かを伝えている。彼はワインを飲みながらそれを聞くと、ふっと口角を上げた。その笑みは何やら不敵なものを感じ、見ていた私は何だかゾッとした。
玲が頷いて小さく返事を返した。ウェイターは去り、見えなくなる。私はすぐに玲に何かあったのかをたずねようとした。
そのときだった。
「玲さん、ご無沙汰しております」
突然男性の声が響いた。振り返ってみると、中年のスーツを着た男がニコニコ顔で立っている。彼は玲のそばまで歩み寄り、へこへこと頭を下げる。玲は立ち上がり、爽やかな笑顔で応えた。
「ご無沙汰しております、田辺さん。相変わらずここの味は一流ですね」
「玲さんにそう言って頂けたらこれ以上ない喜びです! またご両親や、楓さんもご一緒に」
そう言いかけた彼は、ようやく私の存在に気づきぴたりと停止した。私は心の中でだらだらと汗をかく。一体誰だこのおっさんは。私はどう挨拶をすればいいというのだ。
困った末、とりあえず立ち上がりニコリと笑って見せた。男性はそれを見て、へらっと笑い返してくれる。するとそれに割り込むかのように、玲が声を上げたのだ。
「紹介します、妻の舞香です」
そんなセリフを落とし、空気は分かりやすいほどに凍り付いた。目の前のおじさんは勿論、私もだ。だって、私との結婚はまだ隠してる、って言っていたじゃないか。
おじさんは私と玲の顔を何度も交互に見る。そして開けっ放しの口を何とか動かしながら、玲に尋ねた。
「ご結婚された……?」
「はい」
「まい、かさん? 楓さんではなく……?」
「ええ、妻の舞香です」
玲はつかつかと私の隣りに移動し、慣れた動作で腰に手を回した。頭の中はパニックに陥るが、ここまで来たら乗るしかない。私は余裕の笑みを浮かべて挨拶をした。