日給10万の結婚
「初めまして。妻の舞香です」
おじさんは未だ目を見開いている。そして玲さんに恐る恐る尋ねたのだ。
「玲さん、楓さんはどうなさったのです? あなたが楓さんとの結婚を白紙にしたがっている話は有名でしたが、ついにそうなったんですか」
そんな有名は話なのか?? 心の中でつい突っ込んでしまった。楓、という名が恐らく、玲の婚約者だった人なのだろう。玲が結婚したくないと断言していた相手だが、こんなおじさんの耳に入るくらい有名なのか。それとも、上級国民たちはこういう噂が回りやすいのだろうか。
楓さん、一体どんな人なのだろう……。
「ああ、親も楓さんもまるで聞く耳を持ってくれなくて。困っているところに妻との出会いが」
「ほ、ほう」
「運命を感じて、そのまますぐにプロポーズを。小学生の頃の同級生なのです」
「ほう!」
「私の入籍を、両親はまだ知りません」
その言葉でおじさんは完全に固まった。恐ろしい物を見たと同時に、とても面白い物を見つけたような、複雑な顔で玲を見上げている。
玲はにこりと笑った。
「そろそろ報告しようと思っていたところです。両親にも、他の方々にも。田辺さんに一番最初に知られることになるとは」
田辺さんは、何度か頷いた。そしてみるみるうちに顔を明るくさせ、口をにいっと大きく開けて笑いながら私と玲に勢いよく話し出した。
「ははあ、素晴らしい! 政略結婚を蹴って愛を選んだわけですな! 素晴らしい、なんてドラマチックだ! 今度の創立パーティーにはご参加を?」
「勿論、二人で」
「いやー素晴らしい! あそこには大勢集まりますからね、色んな人に披露できますな。これだけお綺麗な方なら、ご両親も納得するでしょう! 玲さんにそんなドラマがあったとは……」
「ありがとうございます」
「こりゃ映画化しそうですな、わはは! お二人が運命的な再会をして惹かれ合ったのだと、いろんな人に教えてあげなくては!」
「はは、恥ずかしいですよ」
「お二人のデートにうちの店を使って頂いてありがたい限りです! 今後もよろしくお願いします、私は応援してますよ!」
田辺さんは玲の手をしっかり握って握手をすると、妙に嬉しそうにしながら出て行ってしまった。残された私は、呆然とそれを見送り、まず私の腰に回したままの玲の手をそっとつまんだ。
「玲」
「お前、汚いもの触るように摘まむな」
「どういうこと? 結婚のこと言っちゃっていいの? パーティーに参加するって何?」
声を低くして睨みつけた。しばらく私との結婚は伏せておくって言ってたし、パーティーに出るなんて寝耳に水だ。
玲はふんと鼻で笑いながら、私が摘まんだ部分を手で擦っている。
「今度うちの創立記念パーティーがあってな。せっかくデビューするなら華々しい方がいいだろ」
「待って、まだ一週間しか経ってないのに?」
「パーティーまではもう一週間あるから」
「無謀だよ! そんなこと急に今決められても」
「ここのレストランのオープンにはあの田辺って男が関わってて、彼はよくここに顔を出してるんだ。今日だって来ることは分かってた。俺がいるって知れば絶対挨拶をしてくる」
彼がそう言ったのでぎょっとする。それってつまり、田辺さんが今日いるってことを分かってて来たの?
おじさんは未だ目を見開いている。そして玲さんに恐る恐る尋ねたのだ。
「玲さん、楓さんはどうなさったのです? あなたが楓さんとの結婚を白紙にしたがっている話は有名でしたが、ついにそうなったんですか」
そんな有名は話なのか?? 心の中でつい突っ込んでしまった。楓、という名が恐らく、玲の婚約者だった人なのだろう。玲が結婚したくないと断言していた相手だが、こんなおじさんの耳に入るくらい有名なのか。それとも、上級国民たちはこういう噂が回りやすいのだろうか。
楓さん、一体どんな人なのだろう……。
「ああ、親も楓さんもまるで聞く耳を持ってくれなくて。困っているところに妻との出会いが」
「ほ、ほう」
「運命を感じて、そのまますぐにプロポーズを。小学生の頃の同級生なのです」
「ほう!」
「私の入籍を、両親はまだ知りません」
その言葉でおじさんは完全に固まった。恐ろしい物を見たと同時に、とても面白い物を見つけたような、複雑な顔で玲を見上げている。
玲はにこりと笑った。
「そろそろ報告しようと思っていたところです。両親にも、他の方々にも。田辺さんに一番最初に知られることになるとは」
田辺さんは、何度か頷いた。そしてみるみるうちに顔を明るくさせ、口をにいっと大きく開けて笑いながら私と玲に勢いよく話し出した。
「ははあ、素晴らしい! 政略結婚を蹴って愛を選んだわけですな! 素晴らしい、なんてドラマチックだ! 今度の創立パーティーにはご参加を?」
「勿論、二人で」
「いやー素晴らしい! あそこには大勢集まりますからね、色んな人に披露できますな。これだけお綺麗な方なら、ご両親も納得するでしょう! 玲さんにそんなドラマがあったとは……」
「ありがとうございます」
「こりゃ映画化しそうですな、わはは! お二人が運命的な再会をして惹かれ合ったのだと、いろんな人に教えてあげなくては!」
「はは、恥ずかしいですよ」
「お二人のデートにうちの店を使って頂いてありがたい限りです! 今後もよろしくお願いします、私は応援してますよ!」
田辺さんは玲の手をしっかり握って握手をすると、妙に嬉しそうにしながら出て行ってしまった。残された私は、呆然とそれを見送り、まず私の腰に回したままの玲の手をそっとつまんだ。
「玲」
「お前、汚いもの触るように摘まむな」
「どういうこと? 結婚のこと言っちゃっていいの? パーティーに参加するって何?」
声を低くして睨みつけた。しばらく私との結婚は伏せておくって言ってたし、パーティーに出るなんて寝耳に水だ。
玲はふんと鼻で笑いながら、私が摘まんだ部分を手で擦っている。
「今度うちの創立記念パーティーがあってな。せっかくデビューするなら華々しい方がいいだろ」
「待って、まだ一週間しか経ってないのに?」
「パーティーまではもう一週間あるから」
「無謀だよ! そんなこと急に今決められても」
「ここのレストランのオープンにはあの田辺って男が関わってて、彼はよくここに顔を出してるんだ。今日だって来ることは分かってた。俺がいるって知れば絶対挨拶をしてくる」
彼がそう言ったのでぎょっとする。それってつまり、田辺さんが今日いるってことを分かってて来たの?