日給10万の結婚
「ちなみにあの男、お喋りでスピーカータイプ。今日聞いたことは一瞬で色んな所に出回るだろう」

「ちょ……ちょっと待って、なんでこんなことを? 今日はちょっと練習するために来たんじゃないの!?」

 彼の言い方からすると、あの田辺って人にここで会い、私を紹介することを想定していたようだ。そうなれば一瞬でいろんな人の耳に入るということも分かった上で。多分、ご両親や楓という人にも伝わるのではないのか。

 玲は私を見下ろし、にやっと口角を上げた。

「お前は案外飲み込みも早いし、センスもあるみたいだからな。今日一日見てて分かった。もしヘマするようならディナーはキャンセルするつもりだったが、お前はもう外に出てもいい。まだ足りない部分はあと一週間で詰め込むんだ」

「無茶苦茶な!!」

「だがまあ、安心しろ。パーティーは俺も同席するしずっとそばにいるから、まだ完璧じゃなくてもフォローしてやれる。あまり気負わなくてもいい」

「ちょちょちょ」

「一週間後頑張れよ」

 軽々しく言ってくる男に眩暈を覚えた。だが倒れるわけにもいかないで、足に力を入れて踏ん張る。履いているピンヒールが折れそうなぐらいに。

 そして玲を見上げ思いきり睨みつけた。

「なんで私に言う前に他人に喋ったの? あのおじさんがいることは予想してたんでしょ?」

「決まってるだろ。お前が怖気づくと面倒だからだ。お前に選択肢はないんだ、俺が全て決める。どうせ一週間後に親に会わせるって言ったら、お前はまだ早いとか言い出すだろ」

「そりゃ、会うなら完璧になってから会いたいと思うからね。元々そういう約束だもの、完璧な妻になってご両親を納得させろっていう話だったでしょ!」
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