日給10万の結婚
「でも次の創立記念パーティーが一番発表の場としては相応しいんだよ。取引先とかいる前で発表しちまった方が、親はすぐに動けないだろ。それに周りから固めることも大事だ、色んな奴らが『いい嫁を貰った』って評判にしてくれれば、なお親は引き裂きにくくなる」
淡々と理由を述べる玲の言葉を聞き、一理あるとも思った。私たちの結婚はかなり無理やりで強行突破した形だ。それを突き進めるなら、周りから固めるのは非常に重要だろう、特に二階堂のような大きな会社では。
だが、それには大きな問題が残ってるではないか。
「だから……私あと一週間で、色んな人から絶賛されるような女になれる自信がないんだって」
この一週間頑張ったけど、まだ基礎中の基礎だ。玲がフォローしてくれるとはいえ、不安が大きすぎる。
私の尤もな不安に、彼はどう励ましてくれるのかと思いきや、腕を組んで静かに私を見下ろした。首を傾け、眉を顰める。
「俺はそんな気弱な女に仕事を持ち掛けた覚えはない」
「い、いや気弱っていうか」
「俺が今日見て、いけると思った。それが全てだ。もう決まったことは覆せない、お前はただ堂々と俺の横に立てばいい。食事の続きをする」
それだけ言うと、玲は席に戻って一人座ってしまった。私は握りこぶしを強く握り、唇を噛む。
横暴だ。勝手だ、強引だ。いやでもこんな滅茶苦茶な仕事を持ち掛けてきた時点で、この男がそんな奴だって知っていた。知っていて、私は受け入れた。
きっと奴を睨みつける。そして、正面に静かに座りなおした。堂々と姿勢を作ると、玲は満足げに私を見ている。
私は置いてあった赤ワインを飲みほし、玲に冷たい声で告げた。
「私は私の全力を尽くす。もし失敗したら、玲の見る目がなかったってことと、玲のフォローが悪かったっていうこと。以上」
「はは、さすが」
「責任もって私をエスコートして」
「任せろ」
私達はじっとにらみ合った。運命的な恋をして結婚したという夫婦の間とは思えない、今にも戦いが始まりそうなほどのにらみ合いだった。